「新疆公安ファイル」流出の衝撃 弾圧の実態示す決定的証拠

日本ウイグル協会副会長 レテプ・アフメット氏に聞く

中国・新疆ウイグル自治区の人権侵害問題に関し、中国当局が少数民族ウイグル族を強制収容していた残酷な実態を裏付ける内部資料「新疆公安ファイル」が先月下旬流出し、世界中のメディアが一斉に報じた。2万人以上の収容者リストや約2900人の顔写真、中国共産党幹部の弾圧指示発言など、中国当局が行っていた弾圧があらわになった。衝撃的な資料の流出を受け、日本を含む国際社会はどう対応すべきか、日本ウイグル協会副会長のレテプ・アフメット氏に聞いた。
(聞き手=村松澄恵、辻本奈緒子)

国際社会は中国に圧力を

日本企業は道徳的責任果たせ

ー今回流出した内部資料はどのような意味を持つか

中国当局が徹底した情報遮断を行う中で、入手可能な最大限の決定的証拠だ。今までは衛星写真などで撮影した建物の外観や運良く海外に逃れた生還者たちの証言しかなかった。

証言者は「武装した警官が立ち会う中で注射を打たれた」「常に手足が鎖でつながれていた」などと話していたが、世の中は「さすがにそこまでしないだろう」と信じてくれなかった。「新疆公安ファイル」により、これまでの証言を裏付ける証拠が出てきた。

ー中国当局は強制収容所を「職業技能教育訓練センター」「学校」などと称し、ウイグル人が自主的に入っていると主張している

流出した写真のような非人道的な扱いを受ける場所に、誰も喜んで入るはずがない。そんなに立派な場所なら習近平国家主席自身が入って1年くらい過ごしてみろと言いたい。

写真に映る人たちの目を見れば、恐怖におびえ、泣き崩れそうなのが感じ取れるはずだ。私の父と弟を含む親族12人が2017年7月に「学校」に行ったとの連絡があった。それからどうなったのか、5年間一切連絡がない。だからこそ、「自分から望んで入っている」という中国当局の話は許せない。

新疆ウイグル自治区テケス県の強制収容所で2018年に行われた制圧訓練とみられる画像。中国当局が収容者を非人道的に扱っていた実態が裏付けられた(「新疆公安ファイル」より)

ーロシアによるウクライナへの蛮行は世界中から非難を受け、制裁が加えられた。これに対し、ウイグル問題への国際社会の対応は不十分だ

中国は都合の良いメディアや外交官を対象としたツアーを組み、事前に準備したきれいな場所だけを見せる芝居をしていた。ロシアのウクライナ侵攻は自由に各国のカメラが入れるかどうかが違うだけで、どちらも虐殺が行われている点では一緒だ。

だが、新疆ウイグル自治区にはカメラが入れないために、国際社会は「本当にそんなことが起きているか確認できない」として、中国に制裁を加えることができなかった。日本を含む世界各国の親中派学者に「欧米の陰謀だ」と非難させたことも、各国政府が疑念を抱き、制裁を科せなかった理由の一つだ。

ー内部資料の流出は、ちょうど国連のミシェル・バチェレ人権高等弁務官の調査チームが訪中するタイミングだった

国連の担当者が新疆ウイグル自治区を2日間視察したが、結局何もできなかった。中国は国際社会を芝居でだまして時間稼ぎをしている。

強制収容所のような劣悪な環境下に数年置かれれば誰もが弱る。収容所ができて約5年が過ぎた今、既に多くの人が亡くなっているはずだ。さらに4~5年すれば、「皆、自然と死んでいった」とする中国の説明を聞くことになるだろう

本当に悪いことをしていないと言うならば、中国は尾行も制限も設けず、海外のウイグル人も同行した調査チームを受け入れるべきだ。国際社会は現場を見せろと強く主張してほしい。

ーバイデン米政権のウイグル問題への対応をどう見る

バイデン政権はトランプ前政権とはやり方が異なるが、新疆ウイグル自治区でジェノサイドが起きているという認識を何度も示している。

米国では今月21日に、「ウイグル強制労働防止法」が施行される。これによって、強制労働の関与の疑いがある製品の輸入が原則禁止となり、多くの企業が商売できなくなるだろう。米国はこの動きに同盟国を加わらせようとしていると思うので、ぜひ加速させてほしい。

ー中国重視の経済界に伝えたいことは

今回出てきた証拠などにより、サプライチェーンの見直しなど今までより厳しい態度に少しは変わるだろうが、最終的には経済利害関係の問題になる。人間として道徳的、人道的な責任を果たしてほしい。お金のためなら責任を放棄していいのか。何のために企業活動をしているのか考えてほしい。

いずれウイグル問題の全容が明らかになる日が来る。目先の利害関係を優先し、今回のような証拠を無視して商売を続けていた企業は社会的責任が問われる時代になるのではないか。

ー日本の対応はどうか

米国のように中国に対して制裁を科すとともに、衆議院で通った対中非難決議を参議院でも採択してほしい。

ただ、今回、決定的証拠が出てきたにもかかわらず、公明党が後ろ向きな姿勢だと聞く。日本にも中国の人権侵害を深刻に捉える議員もいるが、全体ではまだまだ足りないと感じる。

ー日本の一般市民ができることは。

ジェノサイドを止めさせるために、個人でできることがあることをまず認識してほしい。例えば、強制労働に関与していると指摘される企業の製品を買わない、そしてこれら企業に投資しないことなどだ。

他にも、自分の住む自治体に陳情をしてほしい。現在、私が把握しているだけで96の地方議会が意見書を採択して、国に積極的な調査と対処を求めている。この動きが広がり、さらに多くの自治体から正式な声が届けば、国民の声として無視できなくなるだろう。