助け合い精神の継承を 琉球大学名誉教授・平良一彦氏

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高校卒業後、長崎大学で学び、復帰の時は同大学に在籍していた。本土の大学に行ったのは、日本人として自由に日の丸を振りたいという思いがあり、早く本土に復帰したいという思いを強く持っていたからだ。

復帰から8年後の1980年、故郷の琉球大学医学部に採用され、保健医学の担当を任された。長寿と平和を守ることは沖縄の宝を守ることだという思いで、長寿研究をライフワークとした。

沖縄は亜熱帯地域ということもあり、東南アジアやアフリカで流行するマラリア、フィラリア、デング熱、さらにはハンセン病などの感染症が沖縄でも風土病として住民を苦しめた。大戦後に米国が占領し、こうした疾病については当時本土より進んでいた公衆衛生学的対策が実を結び、改善が図られた。沖縄における疾病対策は途上国で参考になっている。

沖縄がこれまで長寿だったのは一年を通して暖かな気候であり、体を動かす時間が多いことに影響している。沖縄が健康長寿であることは遺伝とはほとんど関係ない。ブラジルに渡った移民は生活習慣が変わり、見る見るうちに寿命が縮んだ。

健康でいられる最大の要因は食事だ。海に囲まれている割には魚を食べる機会が少ない。その代わり豚肉をよく食べる。これには何百年という歴史があり、いろいろな形で食べてきた。特に沖縄は全国のほかの地域と比べて野菜の摂取量が多かった。食塩の摂取量は全国で最も少ない。かつお節のうまみ成分のおかげで薄味でも塩分を抑えながら美味(おい)しく食べられた。しかし、若い世代の野菜摂取量は全国平均と変わらないか、それより低いのが現状だ。塩分摂取も増えている。

80年の国勢調査で平均寿命が男女とも全国第1位になり、当時の大田昌秀知事が世界長寿地域宣言を行った。ところが、最近の健康長寿ランキングでは、男性が40位、女性が25位に後退した。その主な要因として、青壮年期の肥満や運動不足などによる生活習慣病の増加がある。もはや、健康長寿は過去の遺産になってしまった。やんばる地方には健康長寿者は多い。彼らの知恵を引き継ぎ、現在進行形にしないといけない。

米統治下時代の悪影響もある。戦後、本土よりもかなり早い時期にハンバーガーチェーンが入ってきた。軽食としてたまに利用するのはいいが、若い世代を中心にこれを昼食や夕食代わりにしてきた。終戦後の数年間、栄養を取り戻すには少しは必要だったかもしれないが、慣れ過ぎてしまったことが問題だ。

生活習慣もある。沖縄では模合(もあい)といって、学生時代の仲間同士らが定期的に集まって親睦を深める。「ゆいまーる」という助け合いの精神が根底にあり、お互いの情報交換の場としても大事にされてきた。

社会生活における深い絆は心の安寧や充足感とも深く関わっている。日々の生活の行動範囲も広くなり、活動的な生き方にも関わっていた。

ところが、最近のコロナ禍で模合の場が少なくなり、人間関係が希薄になっている。沖縄の良かった生活・文化が否定されているようで気掛かりだ。このままでは認知症が増えてしまわないか心配だ。今こそヘルスリテラシーを高め、良い生活文化の遺伝子「ミーム」を継承していかなければならない。(聞き手・豊田 剛)

 たいら・かずひこ 1945年、那覇市出身。78年、長崎大学大学院薬学研究科修了後、同大医学博士。94年、琉球大学教授に就任。以後、沖縄大学地域研究所特別研究員、名桜大学客員研究員を歴任した。やんばるヘルスプロジェクト代表。