仲介で国際的優位狙う中国 【ウクライナ危機 識者に聞く】

中国研究所会長・中央アジアコーカサス研究所所長 田中 哲二氏(下)

国際連合安全保障理事会 の様子=2022年2月23日(UPI)

中露は互いに国益上譲れないウクライナの位置付けをめぐり、対米戦略上「中露蜜月」イメージを壊さない範囲で、水面下での静かな攻防を繰り返してきた。

習政権は同国での「一帯一路」構想の展開を条件に、プーチン政権を擁護し表面上は仲良くしてきた面がある。今回、国連総会でも侵攻に明白に「反対」を表明しないのはそうした事情もある。加えて、中国はロシアに親米政権が生まれるような事態は絶対に避けなければならないとも考えている。米と中露の絶妙な三角形の力関係が変われば、すでに経済問題で大きな圧力を受けている「米中対抗」で中国がより不利な立場に置かれる可能性があるからだ。

たなか・てつじ 1942年埼玉県生まれ。67年東京外大卒・日本銀行入行。93年日銀参事からIMF・日銀の派遣でキルギス中央銀行最高顧問、後にキルギス大統領顧問、「中央アジア日本センター」初代館長を務める。タシケント国立経済大学名誉教授。著書に『キルギス大統領顧問日記』など。

ただ現在、ロシア側の状況は芳しくない。西側の武器支援・援助物資を得たウクライナ軍と市民の頑強な抵抗に遭い、戦況は想定以上の長期戦を強いられている。また露政府は国際決済ネットワークSWIFTからの排除などは覚悟していたが、中央銀行の資産凍結などの強い経済制裁は予想外だったようだ。

また、外交的武器になるはずだった「天然ガス・石油カード」は、「エネルギー脱ロシア論」の高まりを受け、外交交渉上の神通力を失いつつある。米国のシェール・オイルの大幅増産計画やドイツの「ノルドストリーム2」計画の凍結、さらには大規模エネルギー開発プロジェクトからの国際石油資本の脱退等と、NATOやG7レベルの会合における強い反ウクライナ侵攻声明を含めて、西側の結束の高まりとそのスピード感はロシアにとって大きな誤算であった。

ロシア国内でも物価高騰などで市民の不満がたまり戦争反対デモが多発している。プーチン氏に近いオリガルヒ(新興寡占資本家)の一部も「戦争反対」を表明し、国際機関担当の大統領顧問も離反している。反戦ムードが国内外で高まり、プーチン政権は孤立化の方向を強めているが、追い込まれての核兵器や生物・化学兵器の使用が懸念される。

プーチン大統領が、独裁者が末期に陥りやすい「忖度(そんたく)された情報」だけに依拠した「裸の王様」となっていることは、軍や側近が、プーチン氏の怒りを恐れて経済制裁の影響やロシア軍の苦戦など正確な情報を伝えていないという米英のインテリジェンスの報告でも明らかになりつつある。戦争遂行の大義を欠き、人道問題に全く目線の向かない独裁者の末路がそう長くはないのは歴史の示す処(ところ)である。

既に述べたように、親米政権を生みかねない民主革命のような形でのプーチン政権崩壊だけは防ぎたい中国は、まだ慎重に出方を見極めている。今後も停戦協議がウクライナのNATO非加盟や中立化を軸に進むだろうが、ロシア側は停戦後も国境に軍を配備させるなどの圧力をかけ続けるはずである。ここで、両国と対話可能な中国の仲介者としての動きが注目される。

中国は、例えばここまでのめり込んでしまったロシア軍に多少の譲歩条件付きでも「名誉ある撤退」の舞台を提供できるような外交行動が取れるかどうかで、今後の国際社会のリーダーの一角となり得るか否かが試されることになる。

今ロシアにとっては、西側が不買運動をする天然ガスなどを大量に買ってくれる中国だけが唯一の頼りである。ウクライナを要衝として一帯一路を成功させたい中国は、ロシアの窮状を逆手に自国に優位に運ぶよう交渉に関与する可能性は高い。世界は後戻りできない「新冷戦」の混乱に入ったとの声もあるが、中国の仲介者としての出方次第で、民主主義国家群と権威主義国家群の決定的対立に至ることを避け得る可能性が多少は残されている。