【社説】原爆の日 核脅威増大に抑止体制整備を

77回目の原爆忌の前日、平和記念公園を訪れた人たち=5日午後、広島市中区

暑い夏の到来と共に、今年も広島と長崎に原爆の日が巡ってくる。1945年8月6日に広島、9日には長崎に原子爆弾が投下され、一瞬にして街は壊滅し、広島では10万余、長崎では7万余の人々の命が奪われた。
無辜(むこ)の非戦闘員を大量に殺戮(さつりく)し、傷つけた原爆投下は戦争犯罪であり、決して許されてはならない。

形骸化するNPT体制

原爆の犠牲者に哀悼の誠を捧(ささ)げるとともに、同じ過ちを繰り返さぬため、広島と長崎の惨禍を世界に伝え、後世に語り継ぐことは唯一の被爆国である日本の責務である。同時にわれわれは、いまもなお紛争が絶えない世界の現実を直視し、核兵器が持つ戦争を抑止する力について正しく理解する必要がある。

今年2月にロシアがウクライナを侵略し、プーチン大統領は核兵器使用の恫喝(どうかつ)を繰り返している。国連安全保障理事会の常任理事国として世界平和に責任を果たすべき立場にある国の指導者として許されない暴挙である。冷戦後、ロシアは通常戦力の劣勢を補うため核兵器を重視しており、戦術核兵器を実際に使う危険性も高まっている。

新型大陸間弾道ミサイル(ICBM)や日本を射程に収める中距離弾道ミサイル(IRBM)の開発など核戦力の増強を進める中国も重大な脅威だ。核弾頭保有数を公表しないなど不透明な部分が多く、核戦力を最低限のレベルに維持し、非核保有国には核兵器の使用、威嚇を行わないとの説明には疑念が呈されている。さらに北朝鮮も自らの核戦力を誇示し、対抗しようとすれば全滅させると韓国の尹錫悦政権を恫喝。核実験の再開も仄()めかしている。

こうした中、核拡散防止条約(NPT)再検討会議に日本の首相として初めて出席した岸田文雄首相は、核兵器保有国に核兵器不使用の継続や核戦力の情報開示などを求めた。しかしNPTの枠組みは形骸化しており、2015年の前回会議では合意文書を採択できず、今回も核保有国と非保有国の対立から話し合いは難航が予想される。

核保有国に有利な現在のNPT体制では、核軍縮の実現は困難だ。ロシアのウクライナ侵略を阻止できず、国連もその無力さを露呈させた。広島と長崎の“あの日”から80年近い歳月が経過したが、いまもなお人類は戦争や核兵器の脅威に直面させられている。これが、冷厳な国際政治の現実である。

特に最近の権威主義国による核脅威の高まりに対処するには、自国を防衛するための核抑止体制整備が絶対に必要だ。北欧2カ国が米国の核を共有する北大西洋条約機構(NATO)加盟を決定するなど核抑止力を再評価する動きも強まっている。

核共有の論議深めよ

核抑止力を米国の核の傘に頼る日本は、日米安保体制の強化に努めるとともに、核抑止機能の効果的な発揮を可能とするため、核兵器の共有など日米の役割分担や自衛力強化の在り方について論議を深め、それを政策に移す時期に来ている。8月6日と9日を、平和の尊さに思いを致すとともに、そうした取り組みへの覚悟と決意を新たにする日としたい。