トップオピニオンViewpointナフサ途絶を断定した「報道特集」 人々の感情を操るメディア

ナフサ途絶を断定した「報道特集」 人々の感情を操るメディア

著述家 加藤文宏

著述家 加藤文宏

 4月上旬にTBS制作の番組「報道特集」で「日本は6月に詰む」と専門家がナフサの供給途絶を断定すると、高市早苗首相自ら「国内需要4カ月分を確保」していると否定する出来事があった。

 番組は即座に「趣旨を適切にお伝えすることができなかった」と弁明したが、ナフサから製造されるシンナー、コーキング剤などがホームセンターや建築資材店の棚から消える騒動が起こり、一部で石油の備蓄がなくなりかけている証拠とされたのも同時期の出来事だった。

いろいろな石油由来の加工商品
いろいろな石油由来の加工商品

複雑な石油製品の流通

 いったい何が起こっているのか、ナフサを原料とする製品の流通実態を知るため資材販売店などから話を聞いた。

 印刷用インクは3月から不足気味だった。シンナーとコーキング剤に限らず、樹脂シートや袋などで異常な買い占めが発生したのは、ホルムズ海峡の封鎖とナフサ払底を結び付けて危機感を伝えた「報道特集」の影響が大きいのではないかという。これらの商品はスーパーマーケットの日配商品と違い毎日補充されないため、買い占めで棚から売り物が極端に減ったり消えたのが目撃されて、危機感に拍車が掛かり悪循環に陥ったようだ。

 また、石油関連製品が不可欠な仕事をしている人たちの危機感には複雑な背景があった。数年前から原油価格の高騰や環境規制によってシンナーが慢性的な供給不足になっていただけでなく、価格が大きく変動して、仕入れの時期と量を見計らうのが難しくなっていた。ナフサを原料とする他の石油関連製品も物流ドライバー不足や輸送コスト高騰が流通を混乱させていた。

 冬場に石油関連製品の需要が減る塗装や農業などの分野で、春からの需要増とホルムズ海峡の封鎖がぶつかったとする見方もある。

 それぞれの業界と現場で構造的な課題があり、ホルムズ海峡の封鎖によってリスク回避の意識が高まり、製造と流通の思惑も絡み合って石油関連製品の目詰まりを起こしているのは間違いない。

 問題はこれだけだろうか。

 業界紙を含めた報道全体の、石油の備蓄と石油関連製品についての展望は、すぐ備蓄は払底しないだけでなく、流通も停止しないとしつつ、中長期的には不足が心配されるという漠然とした論調で終始している。

 報道が歯切れ悪いのは、前述したように国際情勢だけでなく石油関連製品の製造と流通が複雑で、原油の備蓄量だけで結果が推し量れるものではなく、専門家ですら展望どころか現状を把握するのが難しいからだ。

 しかし、「6月に詰む」といった強い断定が好ましいわけではない。

 「報道特集」は趣旨を適切に伝えられなかったのではなく、感情的な反応を社会に引き起こすためにインパクトのある断定を無責任に放り出しただけだ。

 5月に入って、週刊誌「女性自身」が品不足について政府は危機感を持つべきであると報じた。だが記事の見出しでは「高市政権で〝ナフサ〟不足が深刻化」と、あたかも高市内閣が政策を誤ってさまざまな製品が市場から消えていったかのような印象を与えていた。

 刺激的な断定や、印象操作で社会に動揺を与えて人々の感情を操る報道は、今に始まったものではない。たとえば安倍晋三氏は森友問題など根拠なき断定で誹謗(ひぼう)され続け、風評が訂正されないまま暗殺事件に至り、暗殺犯を正当化する空気が社会に生み出されてしまった。印象操作を行い感情を操縦する報道が常態化した中で、ナフサ不足が伝えられたのである。

不満が攻撃的な衝動に

 こうして石油関連製品の不足について、本質がますます分からなくなっている。危惧しなければならないのは、感情が翻弄(ほんろう)されている間に石油の備蓄や石油関連製品の問題が複雑化して取り返しがつかなくなる可能性だけでなく、人々の不満が政府や企業の判断を誤らせたり、不満が攻撃的な衝動に変化し得る点だ。

 感情を操った報道機関は、いかなる結果がもたらされても責任を取らず、社会に望まれない結果がもたらされた時は自らを棚に上げるだろう。

(かとう・ふみひろ)

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