
4月10日、中国の習近平総書記が中国訪問中の台湾の国民党・鄭麗文主席と会談をもった。野党党首にすぎない鄭麗文氏に中国国家主席が会うのは、台湾に対する異例の優遇策である。
その2日後、中国政府は「十大促進両岸交流政策」、すなわち台湾との交流を促進させる10項目を発表した。その第一は、中国共産党と台湾の国民党との常設的な交流のスキーム構築である。それには「92年コンセンサス」を堅持し、台湾独立に反対するという政治的な基礎に立ち、中国と台湾は一家であるという理念で、中台「同胞」の平和的で良好な交流を継続させ、中台の融合を推進しようとする。要するに、中国による平和的台湾併合策である。
航空路正常化など提案
なお、中国の「92年コンセンサス」では、「中国」は一つだとし、その「一つの中国」は中華人民共和国であるとする。つまり、台湾は中華人民共和国の不可分の一部である。
頼清徳総統の民進党は、中国と台湾は互いに隷属しないという立場なので、「一つの中国」も「92年コンセンサス」も認めない。だから、中台間の公的話し合いは途絶して久しい。他方、国民党は中台の平和的交流を求め、そのために「92年コンセンサス」を認めるが、台湾が中華人民共和国の一部であるという主張に積極的に同意する台湾人は多くない。
中国のその他9項目の提案は以下の通り。国民党と共産党の青年間の定期交流のプラットフォームの構築。大陸中国沿岸の金門島、馬祖島の水道、電気、ガスなどを海底パイプで中国と接続。両島を中国と橋でつなぐ。ウルムチ、西安、ハルビン、昆明、蘭州と台湾との航空便を再開、航空路を正常化する。検疫基準に適合する台湾の農漁業産品の輸入に便宜を図る。「台湾地区」の遠洋漁業者に停泊地を提供し、遠洋漁業の漁獲物を水揚げするための漁港を造って、台湾の漁業産品の大陸での販売に便宜を図る。台湾の食品生産業の大陸への登記とその食糧品の輸入に便宜を図る。台湾の少額商品のための輸入市場を設け、台湾中小企業の大陸市場開拓を支援する。内容が健全で、レベルの高い台湾のテレビドラマ、ドキュメンタリー、映画などの作品の中国公開を認める。中台のメディアコンテンツ制作協力で、中華文化の保護と伝承を進める。上海市と福建省の住民による台湾への個人旅行の再開を推進する。以上である。
実は、第1期蔡英文政権の2018年2月末、習近平政権は「恵台31カ条」を発表した。当時の提案には台湾人、とりわけ能力の高い若い台湾人を中国のプロジェクトに引き入れる意図があった。「中国製造2025」や、「千人計画」「万人計画」など高度な技術開発、先端産業に台湾人の参画を促し、先端企業への投資を促し、金融機関協力と中台共同融資等を謳(うた)っていた。これには、台湾の優秀な若い人材を中国に招き入れることで、台湾を中国に融合させようという意図があった。
地方選にらみ揺さぶり
今年の11月は台湾の統一地方選挙で、全国県市の首長選挙と県市議会議員選挙が一斉に行われる。この結果が28年の総統選挙、立法委員選挙の前哨戦だという見方もある。ところで農漁業地帯や中小企業は南部や地方小都市に多いが、それらは民進党支持の強い地方でもある。つまり、農漁業や中小企業への支援提案で、民進党支持層に揺さぶりを掛け、国民党を有利にしようと意図しているのだろう。そこには民進党の衰退と国民党支持の拡大が、中台関係の交流促進、ひいては中国による台湾の平和的統合に道が開ける可能性があるという期待感がある。
台湾包囲の大規模軍事演習を繰り返し、軍拡に力を注いで、武力による台湾併合の準備を進める中国は、同時に、平和裏に台湾を中国に融合させる策をも講じている。そこで日本としては、防衛力を強化し、日米台の安全保障の実質的協力強化で、中国による台湾武力統合阻止に努めなければならないが、同時に、台湾の農漁業や中小企業の振興にも配慮して、中国による平和統一促進策の進展阻止も図るべきではないか。
(あさの・かずお)





