
大学無償化という声が高まっている。また、この4月以後に警視庁に採用される大卒者について、奨学金返済の半額を東京都が負担するという。大学生と、学生を抱える家族には朗報だが、地方衰退を促進する愚策にならないか。
若者は都会が好きだ。音楽やファッション、各種イベント、アミューズメント施設、多彩なアルバイト先や人との出会いがある都会の生活に若者が憧れるのは自然なことだ。「ジャパン・アズ・ナンバーワン」の時代は一世代の昔だが、それでも東京は世界を代表する大都会である。今でも世界の人々を惹(ひ)き付けている。
進むばかりの一極集中
東京でなくても、首都圏、あるいは大阪、京都には、都市の魅力とともに、大学卒業後の多様な就職先がある。一度集まった若者たちは、生まれ育った故郷には戻らず、生涯を首都圏・大都会で暮らそうとする。東京一極集中は進むばかりである。
昨年の日本の出生数はわずか68万人、18歳人口の半分だ。急速に少子化が進む中、首都圏、大都会以外の日本各地からは、若者が消えつつある。地方から首都圏へと向かう若者の流れで、地方の虚血状態は悪化し、各地の文化の担い手も、企業の後継者も不足して、祭りや伝統芸能、地場産業の継承が危うい。
今までは、大都市は住居費が高く、物価も高いから、東京の大学に出るのを躊躇(ちゅうちょ)する者も少なくなかった。しかし、学費が無償化されれば、その分を住居費に回し、生活費に充てられるから、今まで無理だった人でも無理なく憧れの東京暮らしが可能になる。
今まで子供が大学に入る家庭では、学費無償化などない前提で教育費の準備を進めていたはずだ。家計状況を分析して、憧れの東京暮らしを諦め、自宅から通える地方大学に通うことにした人も少なくないだろう。しかし、学費無償化となれば東京へ行ける。学費無償化は地方の虚血状態を促進する。
少子化の進展で、定員割れはすでに地方私立大学・短大の常態となった。募集停止となる大学も増えているが、案外に大学の数は減っていない。首都圏の大学は大規模校が多く、伝統と知名度もあるから、少子化といってもブラックホールのように新入生を吸い込んでいく。その結果、少子化の影響は地方私立大学、特に小規模校、短大において深刻である。
地方の大学は、地元出身者の受け皿となり、地方の祭りその他の文化の担い手となる若者を地方に留め置き、他地方から進学してきた学生を大学の地元に流し込む役割も果たしてきた。大学生のボランティア活動は、地方活性化の戦力ともなってきた。大学が意図的に地元地域への就職を勧めれば、地方企業の後継者の供給源にもなる。そして、地方に若い男女が定住すれば、その地方の人口減少が緩和される原動力になる。
大学無償化は、地方大学の消滅を加速化させ、地方の衰退を早めることにならないか。
高等教育に公的資金を投入するなら、個々の学生の学費無償化ではなく、地方の大学への教育・研究支援に回すべきではないか。それによって地方大学の教育・研究が充実し、なおかつ学費を切り下げることが可能になり、大都会の大学と学生の経済状態が差別化されることで、地方に人材がとどまる契機になる。それでもなお大都会の魅力は若者を惹(ひ)き付けるだろうが、地方活性化の核を保てるかもしれない。地方文化、地方経済の活性化、地方創成のカギは地方大学にある。
今対処せねば手遅れに
日本が国際競争に勝ち抜くためには、一部の先端研究大学への資金の投下が必要で、優秀な人材の集中も必要だ。しかし、国土の均衡の取れた発展と、日本の美しい郷土の景観と文化、伝統を守るために、地方の大学もまた維持されなければならない。
国会議員の多くは、特に閣僚の多くは、大都市圏の有名大学の出身者に占められている。だから地方の大学の苦境はよく見えないかもしれない。しかし、みるみる地方大学が募集停止という状況になってからでは手遅れになる。今こそ、公的資金を投入してでも地方大学を守らなければならない。(あさの・かずお)






