トップオピニオンViewpoint台湾・国民党党首候補の対中政策を危惧 「中国人意識」で台湾を守れるか

台湾・国民党党首候補の対中政策を危惧 「中国人意識」で台湾を守れるか

平成国際大学副学長 浅野 和生

 10月18日、台湾で最大野党・国民党の党首選挙が実施された。党員投票の結果、党副主席の元台北市長・郝龍斌、現・立法院党団書記長の羅智強を抑えて、元・立法委員の鄭麗文(女性、55歳)が国民党主席に当選した。得票率は50・15%の過半数で、ダークホースの圧勝であった。

 候補者6人が出て賑(にぎ)やかな選挙戦になったが、6人の共通点は、2028年総統選挙の国民党公認候補を目指さないことであった。大方の候補は次期総統候補に現・台中市長の盧秀燕を推していたが、当の盧秀燕は、台中市長の職務に専念するとして、党首選挙に出なかった。

併合の方針変えぬ習氏

 さて、中華人民共和国憲法には、「台湾は中華人民共和国の神聖な領土の一部分である。祖国統一の大業を完成することは台湾同胞を含む全中国人民の神聖な職責である」と明記されている。習近平中国共産党総書記・国家主席は憲法を遵守(じゅんしゅ)して、22年の共産党全国大会でも、各年の年頭の辞でも、その他事あるごとに台湾併合による「祖国の完全統一」を主張している。しかも、「決して武力行使の放棄を約束せず、あらゆる必要な措置を取る選択肢を残す」と明言し、22年8月のペロシ米下院議長の訪台、24年5月の頼清徳総統就任式典、同年10月の双十節など、節目ごとに、空と海で台湾を包囲する大規模軍事演習を実施して、言行一致を顕示している。

 これに対して、頼清徳総統は、来年の国防費の国内総生産(GDP)比3・32%への引き上げ、さらに30年5%達成を明言し、潜水艦など国産軍備の増強と、米製兵器の購入に余念がない。また、アメリカや日本その他との安全保障上の連携に心を砕いている。

 ところが、今回の国民党党首選挙の各候補は、揃(そろ)って国防費の増額、5%達成に反対し、国民生活のために国防予算を社会福祉に回すべきだと主張した。また、中台友好協力関係の実現を高々と掲げ、早期の国民党主席、台湾総統の訪中、首脳会談の実現を謳(うた)った。鄭麗文に至っては、選挙中に「全ての台湾人が誇りと自信を持って『私は中国人だ』と言えるようにしたい」と発言して物議を醸した。

 なお、すべての候補者は実は「中台関係」ではなく「両岸関係」といっている。「中台関係」では、中国と台湾の二つが並び立つようで、中国の主張する「一つの中国」に反するというのである。台湾海峡の「両岸関係」こそが、かつて中台の首脳会談まで実現させた「92年コンセンサス」の立場であり、中台交渉復活の前提なのである。

 しかしどの候補も、台湾の中国併合を掲げてはいない。台湾の世論調査では、中国との統一賛成派は6・5%であって、現状維持と独立支持が85%である(国立台湾大学選挙研究センター、25年6月)。また「自分は中国人」という国民は2・5%だけで、「自分は中国人ではなく台湾人」が63%、「台湾人であるが中国人でもある」30%だから、台湾の中国併合を掲げたのでは選挙を戦えない。

 民進党の蔡英文、頼清徳政権は、中国から「台湾独立派」と規定され、アメリカと共に対中強硬政策を取ってきた。その結果、16年以来、政府間の「両岸交流」が途絶えている。国民党候補に言わせれば、それこそが台湾海峡両岸関係不安定化、中国の軍事的脅威の元凶である。だから中国側の言い分を認めて、日ごろから交流した方が安全というわけだ。

 しかし、習近平政権の、台湾併合に向けた「あらゆる必要な措置」には、経済交流や軍人、政党、著名人の積極的な交流も含まれている。その結果、24年に現役、退役軍人で中国からの工作に応じたとして摘発された者64人という現実がある。

世論分断が中国の狙い

 国民党政治家は、そんなことは承知の上で中国とうまく付き合って、台湾の現状を維持しつつ経済的利益を得ると言うだろう。しかし、「両岸関係」を巡って台湾国内世論を分断すること自体が、中国の統一工作の狙いの一つである。習近平が鄭麗文に贈った祝辞に「国家統一推進」とあったが、民進党の対中国防強化と正反対の、国民党「両岸交流、友好協力」路線は、中国の目指す台湾併合を促進する結果にならないか、懸念を禁じ得ない。(敬称略)

(あさの・かずお)

spot_img

人気記事

新着記事

TOP記事(全期間)

Google Translate »