
来月4日に選出される新しい自民党総裁の使命はただ一つである。衆参両院ともに「少数与党」に陥落している勢力を「過半数」に回復させることに尽きる。足りない議席を多重連立で補うか、機を見て衆院解散を断行して取り敢えず衆院だけでも回復するか。ちまちまとパーシャル連合などを繰り返しているようだと、いずれ「じり貧」に陥る。だが、総裁選で戦わされた主張を聞く限り「胸に刺さる」訴えは聞かれなかった。甚だ心許ない。
一度、崩れ出した体制を建て直すのは容易ではない。先兵の任務を負うべく総裁選に出馬したのも1年前の総裁選で石破茂に敗れた高市早苗(2位)、小泉進次郎(3位)、林芳正(4位)、小林鷹之(5位)、茂木敏充(6位)の5人である。「敗者復活選」と揶揄される所以である。だが、日本の舵取りを野党に任せるわけにはいかない以上、この限られた人材に頼るほかはない。救いは、カオスから人材が生まれるという、わが民族の底力である。欲を言えばキリがないし、粗を探せば、いずれも「少々難あり」は免れないにしても大いに気を奮って欲しいものである。

結党から70年、栄耀栄華を恣にしてきた自民党が、なぜ、ここまで落剥したのか。直接には、旧安倍派の野放図な政治資金の扱いにあるとしても、長い政権党の歴史を紐解けば、ロッキード事件やリクルート事件、東京佐川急便事件など、もっと巨大な危機に何度も襲われている。没落の元凶は「赤化」の危機に対抗するために俄作りで結党した、この党が創業時の使命を果たし、いまや確たる目標を見失っているからだと思わざるを得ない。
自民党議員はどことなくロシアの「マトリョーシカ」に似ている。この「入れ子人形」なるものは寸分違わぬこけしを少しずつ小さくしたうえで幾層にも詰めてある。頭部を外すと中に同じ姿の僅かに小さ目のこけしが鎮座ましましている。その頭部を外すとさらに同じ形でやや小ぶりのこけしが登場する。一体ごとに小さくなっていくから、最後には一寸法師のような小さなこけしが残る。
自民党議員の多くは、曾祖父―祖父―父親という具合に代々受け継がれてきた。「世襲」である。人脈、金脈、学閥など地盤・看板・鞄を引き継ぎ、果ては言葉遣いから身の振り方、生き様まで先代、先々代の影を追っているように見える。問題は、代を重ねる度に、政治家としての器がどんどん小ぶりになっていくことである。稀に「出藍の誉れ」は出るものの数は少ない。宰相・石破茂が自民党を離党して道に迷っていた時に「早く帰ってらっしゃい」と声を掛けたのは福田康夫だった。福田は石破にこう語りかけたそうである。
「お互い、父親が偉いと苦労するなぁ」。
なかなかの殺し文句である。福田康夫の父親は、田中角栄、大平正芳と血みどろになって天下を争った福田赳夫である。頭脳明晰、選挙事務所の入り口に一高時代の「全甲」の成績簿を置いて見せた稚気愛すべき俊秀である。大蔵省から国政壇上に進み、岸信介に重用され、自民党右派の統領として揺るぎない地歩を築いた。石破の父親である石破二朗は内務官僚で、戦後、建設事務次官、鳥取県知事、参院議員、自治大臣を経験した辣腕である。
誰が宰相の座に就くのか。それはまだ分からない。ただ、誰がなるにしても、もはや「内向きな宰相」では務まらない。なにしろロシアとウクライナの戦争は、ロシアがNATO(北大西洋条約機構)という軍事同盟に加入しているポーランド、ルーマニア、エストニアにも無人機等による領空侵犯を繰り返す新たな局面に突入しているからである。第三次世界大戦前夜の気配さえ漂う。
NATOは加盟国の1カ国でも攻撃されれば加盟国全体への攻撃と見做し反撃することを明記(第5条)している。すでにイギリス空軍がポーランド防衛に乗り出したとも伝えられる。戦争というものは誰もが望まないにも拘わらず拡大していくものらしい。
台湾有事、緊迫した朝鮮半島を抱える日本に、いつ、飛び火しないとも限らない。何が起きてもおかしくないほど地球は危機に直面しているようである。日米安全保障条約による同盟だけでなく、イギリスやフランスとも近い日本はどうするのか。トランプのアメリカが、どこまで日本防衛に関与してくれるのか。いずれにしても国力に応じた貢献は求められる。カネで済むのか、「ショウ・ザ・フラッグ」をも求められるのか。総裁選の隠れた争点である。政党の人事だから国際問題は避けるなどと互いに傷を嘗め合っているのでは国民との乖離は埋まらない。 (文中敬称略)





