トップオピニオン記者の視点ウイグル人強制労働問題 圧力で封じられた証言者の声 【記者の視点】

ウイグル人強制労働問題 圧力で封じられた証言者の声 【記者の視点】

 日本ウイグル協会から報道各社に、新疆ウイグル自治区のウイグル人男性が強制労働と人身売買の被害に遭い、その体験をメディアの前で証言するという連絡があったのは8月上旬のことだった。しかし、31日の会見直前、男性の家族が中国当局に拘束され、証言を取りやめるという前代未聞の出来事が発生した。

ウイグル人の男性が強制労働・人身売買によって通ったルートを地図で説明する日本ウイグル協会のレテプ・アフメット会長=8月31日午前、東京都内(石井孝秀撮影)

 日本ウイグル協会のレテプ・アフメット会長によると、数日前に中国本土の男性の兄から連絡があり、公安当局に母親が連行されたため、「絶対にメディアでしゃべるな」と口止めされたという。男性は実名と顔を出して会見に臨む予定だったが、参加を断念。会見も中止が検討されたが、中止すれば中国当局の「人質作戦」による証言潰(つぶ)しが激化する懸念もあった。そのため、アフメット会長が証言者から聞き取った体験談を代読する形で行われた。

 男性が半強制的に徴用されたのは2021年12月だった。契約書は交わされず、江蘇省蘇州の食肉加工場で1日10時間以上の労働に従事。夜9時からは2時間の政治学習に参加し、政治学習のない日は夜11時まで残業だった。祝祭日もなく銀行のカードも取り上げられ、給与が支払われたのかも分からなかった。

 24年に工場で知り合った漢人から「もっと良い仕事を紹介する」と誘われた。工場から連れ出されると、国際人身売買のブローカーに売り飛ばされカンボジアへ。男性は犯罪組織の拠点で、仮想通貨の投資詐欺を強制された。

 ノルマを達成できないと電気ショックなどの拷問を受け、「臓器を売り飛ばす」とも脅された。敷地内には中国の病院もあり、本当に臓器を取られるのではと恐怖に駆られたが、結局ノルマを達成できず、カンボジアの別のマフィアへ「転売」された。その後、インターネットを通じてウイグルの人権活動家などに助けを求め、男性は奇跡的に自由の身となった。

 不可解なのは、男性がパスポートもなしにカンボジアまで連行されたことだ。男性の証言によると、工場を出てからカンボジアに着くのにかかった日数はたったの4日。表向き密入国でありながら、スムーズに通過できるルートも構築されていたことが推察でき、国家権力がバックにいても全く不思議ではない。不都合なく工場の敷地外へ連れ出せた点を考えても「労働力」の売買に企業も一枚かんでいたのは間違いないだろう。

 中国国外で人権活動に取り組む人々を攻撃する中国当局の「越境弾圧」は、以前から大きな問題だった。しかし、今回のように証言予定だった人物が、直前で断念するというケースは、世界的に見ても「聞いたことがない」(アフメット会長)という。

 会見の情報が中国当局へ漏れた原因は不明だ。中国では7月1日、海外の組織・個人が中国の民族団結を損なった場合、法的責任を追及する「民族団結進歩促進法」が施行された。同法施行を機に弾圧や情報収集を強化している可能性はある。

 それだけ男性の証言が重要だったという見方もできる。真実が明らかになるまで告発の声が止(や)むことはないだろう。日本も民主主義国家の一員として、越境弾圧の危機にさらされる人々を保護したり、強制労働による製品の輸入規制などを検討すべき段階に入っているのではないだろうか。

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