トップオピニオン記者の視点憲法改正の隠された課題 信教の自由と「公共の福祉」

憲法改正の隠された課題 信教の自由と「公共の福祉」

 先の衆院選挙で、自民党が憲法改正の発議に必要な3分の2を獲得した。参院では依然少数与党だが、野党を含めた改憲勢力は3分の2に達する。直近の各種世論調査でも、国会における改憲論議に期待するとした国民が半数を超えた。

 改憲が現実味を増していることから、自民の日本国憲法改正草案Q&A増補版(2013年)を改めて読んで新たに注目したキーワードがある。改憲と言えば、自衛隊の明記、緊急事態条項などが論議されることが多いが、草案にはそのほか、国民の権利義務についても改憲案を提示している。現行憲法13条にある「公共の福祉」の概念の曖昧さについてだ。

 記者は昨年この欄(9月26日付)で、参政党の憲法草案を取り上げた。そこでも同党の草案は、個人の権利を制約する場合に使われる「公共の福祉」の概念が曖昧で、時の政権によって都合良く解釈される可能性があるため、改正の必要性を説いていることを紹介した。

 自民の草案も、同じように「公共の福祉」は曖昧だとして改正案を提示している。記者は前回も、政権の都合によってこの文言の解釈を変えた例として、世界平和統一家庭連合(家庭連合、旧統一教会)の解散命令請求を挙げた。東京高裁が解散の可否判断を示す3月4日を控えているので、自民の草案を例にもう一度この問題を考えたい。

 宗教法人法は、教団の解散について「法令に違反して、著しく公共の福祉を害する」場合とする。一方で、「信教の自由」は最も重要な人権と言われ、現行憲法20条でも保障している。教団の解散はその制約であることから必要やむを得ない場合に限るとの考えから、解散要件の法令違反とは「刑事事件」に限定、拡大解釈に歯止めをかけていた。

 解散命令請求を決定したのは岸田文雄政権(23年10月)だが、その1年前までは刑事事件を起こしていない家庭連合に対しては請求できないとしていた。しかし、要件の法令違反に「民事事件」も入ると一夜にして解釈変更し、解散請求に踏み出した。

 安倍晋三元首相銃撃事件後、選挙支援など家庭連合の関連団体との関わりを、マスコミから糾弾され、政権が窮地に立ったことから、自民と教団との関係「断絶」宣言を行うとともに、解散命令請求することで政権維持を図ったのであろう。

 「公共の福祉」が時の政権に都合良く政治的に解釈された端的な例と言えるが、自民自体がその概念の曖昧さと改正の必要性を認識しながら拡大解釈した岸田氏の政治責任の重さを指摘せざるを得ない。

 現行憲法13条は「生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り」最大限尊重するとする。自民の改正草案はそれを「公益及び公の秩序に反しない限り」にすることを提案する。しかし、これでも人権についての自民の甘さを露呈させている。「公益」の概念も曖昧で、むしろ人権の制約範囲が広がるとの懸念も出ているのだ。

 わが国も批准している国際人権規約は、信教の自由などの人権制約根拠を「公共の福祉」ではなく「公共の安全」「公の秩序」「公衆の健康」などの言葉を使い、より明示的に規定する。同規約委員会はわが国に対して「公共の福祉」の定義を明確にし、条約適合性を明らかにすることを求めている。改憲条項としてはあまり関心を持たれないが、人権制約に関わる条項改定は重要で、もっと注目されていいはずだ。

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