トップオピニオン記者の視点〝山上テロ〟と教団解散 「報酬」与えぬ司法の良識を

〝山上テロ〟と教団解散 「報酬」与えぬ司法の良識を

 山上徹也被告に奈良地裁が無期懲役を下した。死刑に次ぐ厳しい刑を言い渡したことは、安倍晋三元首相銃撃は計画的なテロ行為だったと認定したも同じである。控訴の可能性はあるが、同被告による凶行については一審判決で一区切りついたことになる。

 量刑判断は妥当と言えるが、判決で残念だったのはテロがもたらした政治的・社会的影響について踏み込んだ言及がなかったことだ。残された課題はそこだろう。憲政史上最長の首相在職日数を誇った政治家の命を奪ったテロから教訓を得てこそ、再発防止につながり、安倍氏に対するせめてもの供養となろう。

 〝山上テロ〟が社会に及ぼした問題を考える上でポイントとなるのは安倍氏の命を奪おうとした狙いだ。判決によれば、母親が信仰し高額献金を行った世界平和統一家庭連合(家庭連合、旧統一教会)に人生が狂わされたと思い込んで怨(うら)み、教団に「一矢報いる」ことを狙って、教団関連団体のイベントにビデオメッセージを送った安倍氏を銃撃した。それによって社会の批判が教団に集まると考えたのだという。

 テロが契機となって動きだしたことで、最も顕著な事案がある。家庭連合に対する解散命令請求だ。昨年3月、東京地裁は宗教法人法に基づき解散を命じる決定を下した。教団側が即時抗告し、それに対する東京高裁の判断は年度内にも下される見通しだ。

 テロとの関連で、裁判所による解散命令の決定が何を意味するのかといえば「法の支配」の核心をなす適正手続き(デュー・プロセス)無視を司法が容認してしまうことに他ならないのである。適正手続きは憲法上の原則だからそれが踏みにじられることは重大だ。

 家庭連合に対する解散命令請求プロセスの引き金を引いたのはテロ発生当時、首相だった岸田文雄氏だった。事件直後から、マスコミは教団を激しくバッシングし、教団の友好団体と〝接点〟のあった自民党もその嵐に巻き込まれた。

 だが、2022年10月、岸田政権は刑罰を受けた幹部が存在しない教団には「解散命令は適用できない」と閣議決定した上で、要件に民法の不法行為は「入らない」と国会答弁した。しかしその翌日、岸田氏は前日の答弁を撤回し「入る」と一転させたのだった。

 それまで文化庁が要件に民法の不法行為は「入らない」としていたのは、憲法が保障する「信教の自由」の重大性を鑑みてのこと。それを一夜にして変えてしまったのだ。

 岸田氏が適正手続きの原則を無視したことに対しては、一部法律家が疑義を呈しただけで、野党もマスコミも世論も関心を示さなかった。全ては山上被告の狙いに沿う形で動いたのである。

 適正手続きの無視はその後、司法も是認する形となったが、東京地裁に続いて、もし東京高裁も解散命令を出したとすれば、教団に一矢報いようとした山上被告の狙いに沿った結果をもたらすもので、それはすなわちテロリストに「報酬」を与えることになるのである。

 2019年3月、ニュージーランドで起きたモスク銃乱射事件の際、アーダーン首相(当時)が国会演説で「テロリストには何も与えない」と語った。東京高裁に期待したいことはテロリストに報酬となる決定を出すのではなく、暴力によって社会が動くことを許してはならないというメッセージを出す良識なのである。

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