タイ財務省は9日、中国の電気自動車(EV)製造会社「哪咤汽車(NETA)」の現地法人を提訴することを明らかにした。
「東南アジアのデトロイト」を自負する自動車製造拠点タイは、ポストガソリン車としてEVの時代到来を見越し、外資のEV製造企業誘致を促すため、多額のEV購入補助金を支給してきた経緯がある。
NETAに対しても、4年前から総額20億バーツ(約100億円)のEV購入補助金を支給してきた。だがNETAはタイ政府に約束していた現地生産基準を満たすことはなかった。タイ政府は裁判で資産を差し押さえ、いくばくかの資金回収を目指すことになる。タイ政府とすれば中国製EVに賭けた投資に失敗し、損切り措置を講じた格好だ。裁判でタイ政府の請求が認められれば、NETAの資産や銀行口座を差し押さえることが可能になる。
無論、タイ政府としてはNETAに対し厳しい態度を示すことで、他の中国のEV社に補助金を受け取るだけ受け取って夜逃げ同然に撤退することを決して許さないことを示す一罰百戒の意もある。
コロナ禍の2022年にタイ市場に参入したNETAは翌年には、タイ市場でEVトップ企業である比亜迪(BYD)に次ぐ2位の売り上げを誇った。
新興企業NETAの売りは、合理的なコスト管理だった。独自技術を地道に開発するのではなく、市場に出回っている高品質な汎用部品を最適の組み合わせで製品化する「ノックダウン」方式だ。作りも多機能主義ではなくシンプルにすることで格安EV製造に注力し、中国国内では「庶民派EV」の筆頭格に躍り出たと評価を受けたこともあった。
だがタイの自動車マーケットでは、EVは富裕層のセカンドカーとして売れているのが実態で、中間層が初めて購入する自動車にEVを選択するケースはまれだ。NETAはこうしたタイのマーケット事情を読み間違えたもようだ。
結局、NETAの親会社が中国で昨年、倒産すると途端に資金や部品の手当てに行き詰まるようになり、以後は在庫処理のバーゲンセール同然となった。NETAのV-Ⅱだと正式価格54万9000バーツ(約276万円)が、27万4000バーツ(約137万円)だ。
中国製EVはタイ政府の積極的支援もあって、日本車独占市場に近かったタイマーケットに食い込んでいったが、そのブームも踊り場を迎えている。在庫の乱売も影響してEVの再販価格の低落スピードは速く、何より充電インフラの未整備が販売の足を引っ張っている。また、ガソリン車に比べEVの自動車保険料が著しく高い。
BYDを含めタイ政府の購入補助金で支えられた中国製EVは、上げ底による虚構の厚化粧の感があった。タイの中国製EVブームは、終焉(しゅうえん)を迎えつつあるのかもしれない。
(元バンコク特派員)






