世界平和統一家庭連合(家庭連合、旧統一教会)の田中富広会長は12月9日に辞任表明の記者会見を開いた。家庭連合に対する文部科学省の解散命令請求を巡って東京高裁の抗告審が11月21日に終結し、「審理が一区切りついた」ことなどを理由とした。会見では「被害を訴える声」に対し、お詫(わ)びとしての謝罪も行った。だが、意外だったのは会見の場に集まったメディアに対して“感謝”の言葉を伝えたことだ。
「教団のトップとしては一番厳しい時期を対応したと思う。この任期を振り返って、どのように感じているか」と問われた田中氏は、信者や海外の有識者に支えられたことに触れつつ、報道陣に対して「(事件後)この3年間で皆さんに出会えたことが良かった」と語った。記者たちからさまざまな質問を受けたことについては「私の想像しない視点から、社会に目を向けるきっかけを与えてくれた。非常にうれしく、これからもよろしくお願いしたい」と述べた。
この発言が意外だったのは、教団側はこれまで、メディアの「偏向報道」に苦しめられてきたことを再三発信してきたからだ。教団によると、11月21日に教団が東京高裁へ提出した最終主張書面の中でも「メディアの虚構」に言及。安倍晋三元首相を暗殺した山上徹也被告の教団への恨みという「動機」を過剰に擁護し、凶行への批判を教団批判にすり替えた報道が行われたと訴えた。田中氏自身も、東京地裁が解散命令を出した2日後の3月27日、外国特派員協会で開かれた記者会見の中で、教団に関するメディア報道に「歪(ゆが)んだ内容や悪意で発信された内容もあった」と苦言を呈したこともあった。
現場で取材した者として、田中氏のメディアへの「感謝」の言葉には、対峙(たいじ)してきた側を突き放さず、歩み寄ろうとする宗教者としての信念・姿勢を感じた。また報じられる側の立場として、記者たちから「成長のきっかけを与えられた」という回答は、謙虚な姿勢に映る。
ただ、別の見方をすれば「社会に目を向けるきっかけを与えてくれた」ということは、それまで田中氏、もしくは教団側にその視点が欠けていたという率直な「告白」でもある。
また、集団調停への対応や補償委員会の設置などが今年秋になって進められたが、会見ではこれらを「枠を超えた取り組み」と評した。だが、これも見方を変えれば「もっと早く実施することはできなかったのか」という疑問も浮かび、どうしても「追い詰められて仕方なく」という印象を周囲に与えてしまうのは、無理からぬことだ。
しかしながら、解散命令がどうなるか、解散後の状況がどうなるか不透明な中、教団の改革を呼び掛け続けた田中氏の功績は決して小さくはない。むしろ、田中氏の示した社会やメディアに対する姿勢は、次世代の教団への手本になったのではないか。
解散であろうと解散でなかろうと、教団や信者を巡る問題が終わることはない。反省すべき点は反省し、社会と共に生きる宗教のあり方について、教団全体で向き合い続け、模索していくことが大切だ。
(報道部長代理)






