自民党総裁選の候補者による公開討論会が各地で行われている。各候補の主張で論点の一つになっているのが外国人政策だ。自民党政務調査会は今年6月、「国民の安心と安全のための外国人政策 第一次提言」をまとめたが、党が外国人政策に取り組んでいる姿勢を本格的にアピールしたのは先の参院選だった。「日本人ファースト」を掲げた参政党の躍進が伝えられたからだ。
参政党の神谷宗幣代表は日本の政治が抱える問題をあぶり出す〝リトマス試験紙〟になっていると発言をしたことがあった。現状を見ると、言い得て妙である。ここでは、参政党があぶり出した問題として「憲法」を取り上げたい。
同党は「改憲」でも「護憲」でもなく、ゼロベースで憲法を作る「創憲」を掲げて、憲法草案を作り『参政党と創る新しい憲法』を出版した。排外主義だ、復古調だなどと左右両陣営から辛口の論評が出ている。
的を射ている批判が多いが、草案の中に、重要な問題提起を行っている、と思った部分がある。現行憲法にある「公共の福祉」の概念が曖昧で危険だと指摘したことだ。
日本国憲法13条は「すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする」と定める。ここに出てくる「公共の福祉」は何を意味するのか。前述の本は「裁判例や学者の間でも意見が多数分かれており、実は統一した見解がない」ことから、時の政権に「都合よく『解釈』されてきた」と指摘する。
「公共の福祉」の曖昧さについては、筆者は今年の「憲法記念日」(5月3日)に合わせて書いた弊紙「メディアウォッチ」でも触れた。国際人権規約を批准したわが国には、自由権規約を守る義務がある。同規約は宗教・思想良心・表現の自由に対する制限根拠を「公共の安全」「公の秩序」「公衆の健康」などを挙げて厳格に規定する。このため、自由権規約委員会は、日本国憲法の「公共の福祉」の概念が不明確だとして、その定義を明確化するように求めている。
「公共の福祉」の解釈を、政権の都合によって変えた具体例がある。世界平和統一家庭連合(旧統一教会)に対する解散命令請求だ。宗教法人法の解散要件となっている「法令に違反して、著しく公共の福祉を害する」行為は安倍晋三銃撃事件後、刑事事件に限定していたが、自民党政権は民事事件も入る、と解釈変更した。
憲法の文言概念の曖昧さを使って、人権弾圧を行っているのが中国だ。中国共産党が制定した憲法は36条で「中華人民共和国公民は、宗教信仰の自由を有する」と一応、信教の自由を認めるふりをするが、その後半部分に「国家は、正常な宗教活動を保護する」とある。つまり「正常」な宗教かどうかを判断するのは共産党だから、共産主義に反対する宗教は「邪教」として弾圧できる仕組みをつくり上げているのだ。
参政党の憲法草案は33条しかなく大ざっぱさ、拙さは否めないが、現行憲法の問題点についての目の付けどころは評価できる。神谷代表が憲法草案は議論のためのたたき台と位置付けるように、さらに党内で論議を重ね草案をバージョンアップさせれば、憲法改正論議を深める役割を果たすことができるだろう。
(編集委員)





