トップオピニオン記者の視点参院選と物価高対策 「成長戦略」が聞きたかった

参院選と物価高対策 「成長戦略」が聞きたかった

20日の参院選投開票まで2日。いよいよ最終盤である。

今回の選挙戦では、物価高対策が大きな争点になった。長引く物価高に苦しむ家計への支援策として、与党自民・公明両党は国民1人当たり2万円の給付を打ち出し、一方の野党は消費税の減税・廃止で対抗するという構図だ。

物価高の象徴的存在だったコメ5㌔の平均価格が直近で3602円と、随意契約による政府備蓄米の放出により7週連続で下落したが、依然、前年同時期(2327円)の約1・5倍の高水準。

主要食品メーカー195社による飲食料品の値上げも、7月は2105品目と前年同月の約5倍となり、前年を上回るのは7カ月連続。2025年累計では7月中にも年間2万品目に達する可能性があるという(帝国データバンク調べ)。

値上げも給料が十分に増えていれば問題ないが、実質賃金は5月も前年同月比2・9%減と5カ月連続のマイナス。選挙戦で物価高対策が問われるのも当然と言える。

では、給付と減税、どちらが妥当なのか。また、他に適切な政策はないのか。

給付、減税で言えば、どちらも問題がないわけではない。例えば、どちらも全国民が対象になっているが、所得や資産の十分ある人にまで必要なのか、つまり、対象を絞る必要はないのかという点。

大幅な減税(廃止を含む)を主張する場合、法律で年金や医療、介護などの社会保障費に充てることになっている消費税を減税に回した場合、社会保障費の不足分をどうカバーするのか。

また、政策を実施するのにかかる手間、時間はどうなのか。岸田文雄前首相が実施した定額減税では企業に多大な事務負担を強いたが、消費税減税では特にスーパーなどの小売りの現場に大きな負担をかけることにならないか、等々。

政府、日銀が目指す「物価上昇を上回る賃上げを持続的に実現する」には、文字通り、高い賃上げを目指す方向と、物価高を抑制する方向の二つがあるはずだ。

選挙戦では後者の物価高対策ばかりが声高に叫ばれ、前者の賃上げを促す政策はあまり聞かれなかった。

政党政治上、選挙に勝つのは至上命題。そのために国民の関心を引くメッセージの発信が必要なのは分かるが、スローガン的で深みが感じられない。それより、賃金を持続的に上げるため労働生産性をどう高めていくかといった成長戦略が聞きたいと思ったのは筆者だけではないだろう。

今後はトランプ米政権による高関税政策の影響が本格化する。交渉の次第では、8月1日から、日本からの全ての輸入品に課す新たな「相互関税」の税率が25%になる。

当然、輸出企業を中心に打撃を受けることが予想され、企業収益に大きな影響が及べば、賃上げ継続にも黄色信号が灯(とも)りかねない。

先の日銀短観(全国企業短期経済観測調査)でも、企業の多くで景気の先行き懸念が示され、景気後退入りも憂慮される状況になりつつある。

それでなくとも、少子高齢化から労働力不足という成長制約に見舞われ、活力の低下が懸念される状況だ。活力を維持し、外需の影響を受けにくい経済への成長戦略が必要なはずなのだが。

 (編集委員)

spot_img

人気記事

新着記事

TOP記事(全期間)

Google Translate »