トップオピニオン記者の視点【記者の視点】中学「公民」の偏向度 「別姓」と同性婚を同列扱い

【記者の視点】中学「公民」の偏向度 「別姓」と同性婚を同列扱い

編集委員 森田清策

選択的夫婦別姓(夫婦別姓)に関する法案審議が国会で始まったのを機に、子供たちがこの問題を学校でどのように学んでいるのか気になり、教科書を調べてみた。中学生にも「同性婚」を教えるなど学校教育のリベラル化が著しいことから、夫婦別姓推進に傾く記述になっていることは大方予想していたが、夫婦別姓と同性婚を同列に扱い、生徒の結婚観を混乱させる“偏向教科書”があるのには驚いた。

今年度から使われている帝国書院の社会科『中学生の公民―よりよい社会を目指して』。「基本的人権の尊重」について学ぶ第2節に「婚姻平等の議論」と見出しを付けた囲み解説を掲載している。

現行制度では「夫婦(ふうふ)の氏(うじ)(姓(せい))を別々にしたいと望むカップルや、同性(どうせい)のカップルは法律(ほうりつ)上の婚姻ができません」と説明。その上で「別氏希望のカップルも同性カップルも、親密(しんみつ)な共同生活をしている点では、法律婚(こん)をしている同氏希望の異性(いせい)カップルと変わりありません。このため、現在の制度は平等権(けん)の侵害(しんがい)ではないかが議論され、各地で裁判(さいばん)も行われています」と述べている。

「法律婚」をする「同氏希望の異性カップル」という紛らわしい表現に、生徒(中3)の結婚観を相対化させようとの意図を感じる。また、夫婦同姓の現行制度については、最高裁が2度も「合憲」判断を下していることには触れないのもおかしい。

さらに、その意図が明らかだったのは、囲み解説に付いている円グラフだ。「NHK資料」(2021年)とする世論調査で、その数値は「夫婦(ふうふ)は、同じ名字を名乗るべきだ」39・7%、「同じ名字か、別の名字か、選べるようにすべきだ」56・9%となっている。これだと、夫婦別姓賛成派が同姓維持派より約17ポイント多くなっているように見える。

だが、これとはまったく違う結果が出た世論調査がある。22年3月公表の内閣府「家族の法制に関する世論調査」だ。設問は①夫婦同姓を維持②夫婦同姓を維持した上で旧姓の通称使用を法制化する③選択的夫婦別姓を導入―の三つだ。これだと、①②は夫婦同姓維持派でその合計は約7割。一方、③は3割弱にとどまる。

この問題についての論議が本格化する前には、②を含めて選択的夫婦別姓制度と誤解する国民が少なくなかった。たぶんそれを見越してのことだと思うが、NHKと同じように二択に絞った質問設定を行い、夫婦別姓賛成派が過半数を占める結果を導き出す新聞・テレビが少なくない。

この教科書に対する文部科学省の「検定済み」は24年3月だから、編集段階で内閣府調査を選ぶ時間は十分あったはずだ。あえてNHK資料を用いたのは、中学生に夫婦別姓賛成派が多いんだよ、と印象付ける意図があったと考えて間違いないだろう。

東京都内における「公民」の教科書採択は、東京書籍が最も多く、帝国書院は教育出版と並び2位。「国家百年の計は教育にあり」と言われる。著しく偏向した教科書で中学生が学んでいると思うと、日本の将来が案じられる。

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