トップオピニオン記者の視点中国版スプートニクショック 米衛星への攻撃能力向上 【記者の視点】

中国版スプートニクショック 米衛星への攻撃能力向上 【記者の視点】

編集委員 池永達夫

孫氏の兵法の眼目は、「戦って勝つ」のは好ましいことではなく、「戦わずして勝つ」ことを推奨している点だ。

それでも孫氏は、戦になった場合の戦術にも言及している。

その一つが「戦場では高みをまず取れ」というものだ。戦場で高地を取れば、敵の動きの全体像を把握しやすく打つべき手を間違えることが少なくなる。

現在でいえば、偵察機を飛ばせる空域と偵察衛星の確保がポイントとなる。

その「高み中の高み」である宇宙で、西側陣営は弱点をさらすことになる可能性があると警鐘が鳴らされた。

米宇宙軍最高責任者のチャンス・サルツマン作戦部長は米議会公聴会でこのほど、中国人民解放軍は米国や同盟国の衛星を攻撃し、その機能を不能にする技術開発に動いており、宇宙配備の衛星などを使い米軍事衛星の通信や偵察能力を担ったセンサーなどを破壊する演習も実施していると証言したのだ。

歴史を回顧すると、米軍を震撼(しんかん)させたのは20年近くも前のことだ。2007年1月に中国が行った衛星攻撃兵器(ASAT)実験は衝撃的だった。これは自国の老朽化した気象衛星に対してミサイル攻撃を加え、破壊したというものだ。さらに中国はミサイルだけでなく地上配備のレーザー兵器で人工衛星を破壊する作戦を準備しているとし、インド太平洋地域で米国や同盟国の戦闘力をなえさせてしまう能力を高めつつあると、サルツマン氏は警告した。

人工衛星は米軍の「目」であり「耳」だ。米軍は、全地球測位システム(GPS)や通信衛星などを介した衛星ネットワークにリンクすることで、各部隊が世界のどこに散らばっていても高度な軍事作戦が可能だ。

飛来する弾道ミサイルを撃ち落とすミサイル防衛も衛星がその要となっているし、偵察衛星があるからこそ他国の軍や兵器の動きを詳細につかめ対応することができる。最新兵器を駆使した米軍のハイテク戦争は、人工衛星の基盤によって立つ存在だ。

その人工衛星が破壊されれば、視覚と聴覚を失ったまま戦えというに等しく勝負の結果は目に見えている。

いくら強力な軍隊であろうと、敵を把握できず命令指揮系統が破断されれば、目つぶしに遭いアキレス腱(けん)を切られたゴリアテでしかない。

人工衛星を利用して現在位置を測定するGPSは、受信機が複数の通信衛星から電波を受信して、緯度・経度・高度を割り出す。この人工衛星が数台、欠けるだけでGPSは機能不全を起こすのだ。

1957年、人類初の人工衛星スプートニクを飛ばしたのはソビエトだった。このスプートニクショックが米国のアポロ計画の起爆剤となった。中国は21世紀のスプートニクショックをもたらそうとしている。

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