
編集委員 床井 明男
備蓄米放出で高値収まるか
「令和の米騒動」から半年。当時、2024年産の新米が入荷すれば、コメの価格高騰は徐々に収まるというのが農林水産省はじめ多くの見立てで筆者もそう思っていたが、現状は、さすがに店頭にないという状況はなくなったものの、価格は高値のままだ。
農水省によると、業者間の相対取引価格は昨年9月以降、過去最高値を更新し続けている。当然、スーパーなどでの店頭価格も安くならないわけで、12月は精米5キロ当たりの平均的な小売価格は3485円と前年同月比73・1%上昇、前月比でも0・7%高い。
家内が常々「少し前だったら、同じ値段で10キロ買えたのにねぇ」とぼやき、ちょっと大袈裟(おおげさ)かなと思っていたが、少しも誇張ではなかった。
その家内が「近くのスーパーで今、4000円のお米が2割引で買えるので2袋どうかな」と話し掛けてきた。平均以下の値段で平均以上買えるなら少しは得かなと考え「いいんじゃない」と筆者。ごく最近のやりとりである。
高値にはもちろん、幾つか理由がある。一つは生産コストの上昇だ。機械の動力燃料費が20年に比べ約1・3倍、肥料価格も約1・4倍に上昇。このため、農業協同組合(JA)など集荷業者が農家からコメを買い取る時に支払う概算金が前年比40~50%引き上げられている。
そうした背景の下で、「令和の米騒動」は起きた。23年産米の収穫量が670万トンと前年より30万トン少ない中、需要量が702万トンとインバウンド(訪日外国人)の増加などから10年ぶりに増加に転じて、大きな需給ギャップが生じた。南海トラフ地震臨時情報などで消費者が買いだめに走ったことも影響した。
24年産米も作況指数は全国平均で「平年並み」の101。収穫量は679万2000トンと前年より2・8%増とわずかに増えた程度で、需給は依然厳しい状況が続く。
農水省はコメの高値が続く理由について、「令和の米騒動」の余波で、生産者から小売店までそれぞれの段階で在庫を確保する動きが広がり、業者間でコメの調達競争が過熱しているという。
消費者からすれば、高値維持のために売り惜しみとみられる行為が行われているわけだが、特にJAなど大手の集荷業者で十分に集荷できないということで、農水省が政府備蓄米を放出する準備を進めている。買い戻し条件付きで集荷業者に販売できるようにし、流通の安定を図るという。不作時などに限定してきた運用方針を修正する。
民間在庫量は昨年10月末で245万トンと、同6月末の156万トンから回復しているが、この意味するところは前述の業者間のコメ確保の動きだったわけで、コメが安くならないのも道理である。
しかも、在庫の数字は対象がある程度規模のある業者のみで、すべてを網羅しているわけではない。関係者によると、農家の庭先にトラックで乗り付けて、破格の価格を提示してコメを買い付ける業者もいる。在庫の実数はもっと大きいということであろう。
備蓄米は昨年6月末時点で91万トン。農水省は今後、流通状況に応じて放出の時期や量などを見極めるとしている。放出に業者がどう反応し、高値は収まるのか、専門家でも見方が分かれている。