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サンデー編集長 佐野 富成
日本の時代劇を世界へ
日本時間の9月16日、歴史ある米国テレビ界のアカデミー賞と言われる第76回エミー賞授賞式がロサンゼルスのピーコック・シアターで行われ、俳優・真田広之さんが、主演しプロデューサーを務めたドラマ「SHOGUN 将軍」(全10話)が、作品賞、主演男優賞など史上最多となる18部門を獲得した。
主演男優賞には真田さん(徳川家康をモデルにした吉井虎永役)、主演女優賞にはアンナ・サワイさん(細川ガラシャをモデルにした戸田鞠子役)が選ばれた。
原作はジェームズ・クラベルさんの小説「将軍 Shogun」。1980年にリチャード・チェンバレンさん、三船敏郎さん、島田陽子さんらが出演した同名ドラマ版、ドラマ版を再編した劇場版が日米で公開された。
物語は、関ケ原の戦いを直前に控えた戦国時代真っただ中の日本。窮地に立つ戦国武将吉井とその家臣となった英国人航海士・按針、二人の運命を握る謎多きクリスチャン鞠子を軸に宿敵と覇権を争う。
今回は、リメイク版であり、主人公を按針から吉井に視点を移した物語となっている。
今や日本国内の時代劇は風前の灯(ともしび)と言われ、かつては大河を含め、毎日のように放送されていたが、現在地上波からは大河以外消滅。特番という形で放送されるだけで連続時代劇は無くなって久しかった。
今回の真田さんの受賞は、時代劇復活に向けた一つの事案を提案したともいえ、さらには〝華麗な剣劇〟ではなく痛み(心を含めた)を感じさせる〝殺陣(たて)〟というものを世界へ発信し、それらが受け入れられた。
「これまで時代劇を継承し支えてきてくださったすべての方々、そして監督や諸先生方に心より御礼を申し上げます」「あなた方から受け継いだ情熱と夢は、海を渡り、国境を越えました」
授賞式で受賞の喜びを万感の思いを込めた真田さんのスピーチは感動的なものだった。
だが、時代劇に関する費用は現代劇と比べ非常に高くなるという欠点があり、連続時代劇の制作が難しい現状がある。
現在、BS時代劇の制作費は2000万円から3000万円。連続テレビ小説(1週分)は5000万円以上とされる。民放のテレビドラマでは平均1クール(12話)3000万円だが、そこにVFX(視覚効果)などを加えると映画では10億とも20億とも言われる。
しかし、「将軍」は総制作費約350億円(2億5000万㌦)、1話当たり35億円という大河ドラマ1年分の費用を調達、作品を完成させた。費用を調達したのはディズニー社だ。
真田さんは、「将軍」のオファーがあった際、幾つかの条件を付けた。「日本人の配役は全員日本人でなければならない」「時代劇専門のクルーを呼んで各パートに配置する」というもので、これを受け入れられないのなら「出演は辞退する」と制作陣に突き付けた。
日本の時代劇には、殺陣師、時代考証、所作、衣裳、床山(カツラ)など職人たちの総合芸術的色合いも強い。だからこそ、当代一流の時代劇スタッフに総動員をかけた。それが結果的に大成功を収めたと言えるだろう。
「将軍」はシーズン2、シーズン3の制作がすでに決定している。原作は無くオリジナルになるため、これまでにない挑戦的なものになるのは間違いない。本当の意味で、日本時代劇の新たな挑戦が始まったと言える。