Homeオピニオン記者の視点オールドメディアとSNS【記者の視点】

オールドメディアとSNS【記者の視点】

編集委員 森田 清策

今から6年前、中学時代の同級生から長男、A君の進学の相談に乗ってほしいと頼まれ、東京・日本橋の喫茶店で会った。志望を聞くと、「IT(情報技術)を学びたい」と言う。

筆者は自分の受験生時代を思い出し「大学受験するなら、新聞読んでいた方がいいよ」とアドバイスした。すると、「新聞は読まない」と言う。理由を聞くと、「1面トップにする記事を選び、どんな見出しを付けるかを決めるのは編集の人でしょう。そこに誘導がある。それより今は、ネット上にさまざまな情報が流れているし、一次情報も手に入る。それを取捨選択し、何が正しいかを、自分で判断した方がいい」と言うのだ。

20歳前の若者でもそんなことを考えているのかと驚くとともに、新聞・テレビの役割は変わったなとため息をついた。「世界日報」は大手マスコミの偏向報道批判を“売り”にしているのだから、彼の意見は「もっともだ」とも思った。

先の兵庫県知事選挙で、新聞・テレビの“オールドメディア”から「パワハラ・おねだり」疑惑を指摘され続けた斎藤元彦氏が大方の予想を覆して当選した。開票結果が出た17日夜、フジテレビの情報番組でMC宮根誠司氏が「大手メディアのある意味、敗北です」と語ったのを出張先のホテルで聞いた時、「まだそんな認識か」と驚いた。「敗北」という言葉からは「自分たちの報道が世論を動かしている。勝って当たり前」という傲慢(ごうまん)さが感じられた。

また、読売新聞(19日付)社説は「民意の形成過程で、真偽不明の情報がSNS上で拡散し、公正であるべき選挙が歪(ゆが)められたとすれば、ゆゆしきことだ」と書いた。A君なら「バカにするな。SNSにフェイクがあるのは分かっている。選挙前、パワハラ・おねだりと、さんざん偏向報道したのは新聞じゃないか」と反論するだろう。

今回の知事選挙における有権者の投票行動がオールドメディアを主に見る層と、SNS層とで大きく違ったのは確かだろう。だが、A君のような若者層は別にして、嘘(うそ)は報じないが事実を隠すオールドメディアと、フェイクの多いSNSの両方を見て、斎藤氏がパワハラ・おねだりの加害者だったのか、それとも既得権益を守ろうとする県職員・OB、県議会勢力による“クーデター”の被害者だったのかを判断した有権者が多かったのだと思う。オールドメディアが伝えなかった事実をSNSで確認し総合的に判断した結果が斎藤氏勝利に繋(つな)がったとみるべきだろう。

パワハラ・おねだり疑惑で決定的な証拠を提示できなかったオールドメディアは今、斎藤氏の公職選挙法違反疑惑追及に力を入れている。同氏の選挙活動に関わったとされるPR会社への報酬支払いがあったからで、新聞は違反を強くにおわす識者のコメントを掲載する。

一方、SNSには「選挙期間中のその活動が個人のボランティアで行われたのであれば、何ら法的な問題は生じない。公示前の立候補準備行為だけは有償で請け負えるので、その分について70万円が支払われただけの事案」(野村修也・中央大学法科大学院教授)と、現段階で違法性を問題にすることを戒める投稿がある。国民がオールドメディアだけで何が正しいかを判断する時代は終わったのだが、その現実を受け入れたくないマスコミ関係者がまだ多い。

spot_img

人気記事

新着記事

TOP記事(全期間)

Google Translate »