【記者の視点】カンボジア運河建設進める中国 念頭にタイ・クラ地峡運河開発も

編集委員 池永 達夫

中国とカンボジアの関係強化が進んでいる。

中国は1年半前、カンボジアの首都プノンペンとタイ湾に面した港湾都市シアヌークビルを結ぶ同国最初の高速道路を建設したばかりだが、今年後半には両都市を結ぶ運河の建設工事に入ることをこのほど明らかにした。

この両都市を結ぶフナン・テチョ運河は全長180キロで、河川港であるプノンペン港下流のメコン川岸からバサック川を横断して南西部のケップ州に向かい、シアヌークビルに至る。事業費は17億ドル(約2550億円)で、開通予定は2028年だ。

運河の建設は中国の国有企業が担当し、昨年10月から環境保全問題を含む事業化調査を行っていたが、そのリポートも公表されないまま夏以降には着工されるという見切り発車の形となっている。

カンボジア政府とすれば、同国経済の牽引(けんいん)役として期待される輸出向けアパレル関係製品などの輸送コストを下げることで、主要輸出産業の競争力強化に資することに期待を懸ける一方、これまでメコン川を下ったりホーチミン市経由で海外輸出を担ってきたベトナム経由の物流を自前のものにしたいという思惑がある。

一方、中国とすればシアヌークビルの経済開発と同市東部のリアム海軍基地の整備強化で、ジプチに次ぐ中国人民解放軍の海外基地を確保する上で役立つものとの基本認識がある。

さらに中国はこの運河建設の実績とノウハウの蓄積をもって、タイのクラ地峡の運河開発に挑むのではという観測も出てきた。

このクラ地峡の運河構想は1世紀以上前から言われ続けたきたメガプロジェクトで、マレー半島を掘削してインド洋と太平洋を結ぶ「インドシナ半島のパナマ運河」となるものだ。

タイのセター首相は現在、このクラ地峡を運河ではなくタイ湾側とインド洋側の港を道路で結ぶ総工費1兆バーツ(約4・2兆円)の「ランドブリッジ(陸上橋)構想」を立ち上げ、欧米や日本にもプロジェクト参画要請を積極的に行っている。

だが、マレー半島東西の二つの港に陸揚げして陸路で運び、すぐにまた船積みする手間と労力を考えると本当に経費と時間短縮につながるのか疑問視する声が上がっている。

この点、90キロの運河を掘りさえすれば、輸送はマラッカ海峡を回るより時間的にも経費的にも節約される。何より中国が危惧しているのは、有事の際のマラッカ海峡リスクだ。台湾有事などで中国が米国と対峙(たいじ)した場合、中東やアフリカ貿易のシーレーン要衝となるマラッカ海峡を米軍によって押さえ込まれれば中国はたちまち困窮せざるを得ない。ミャンマーのチャオピューからムセを経由して中国雲南省にパイプラインを通したのも、このマラッカ海峡リスクに対応するためだったが、クラ運河を開通させれば、ユーラシア大陸における地政学的条件をがらりと変えることが可能となる。

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