Homeオピニオン記者の視点獄中で中国と闘う香港紙創業者 信仰で過酷な運命受け入れ

獄中で中国と闘う香港紙創業者 信仰で過酷な運命受け入れ

編集委員・早川 俊行

神への信仰と愛する妻の存在が一人の男をここまで強くするものなのか。香港国家安全維持法(国安法)違反罪に問われている日刊紙「リンゴ日報」(2021年廃刊)の創業者、黎智英氏(76)のことである。

黎氏はリンゴ日報を通じ、中国共産党批判を続けた香港民主派の闘士だ。中国当局は20年に、目障りだった民主派勢力を一掃するため、国安法を施行。黎氏は外国勢力と結託し国家の安全に危害を加えたなどの容疑で逮捕・起訴された。

その黎氏の裁判が先月18日に始まった。だが、有罪になることは確定している。国安法違反罪の有罪率は100%であり、黎氏は最高刑の終身刑が科せられる可能性がある。裁判が始まるまでに黎氏は既に1000日以上も勾留されている。

黎氏はこの過酷な状況を避けることもできた。英国籍を有し、資産もあったため、逮捕される前に海外に逃れることができたのだ。だが、そうはしなかった。海外で穏やかな生活を送るより、厳しい獄中生活に耐えることを自ら選んだのだ。たとえ牢獄(ろうごく)から一生出られないとしてもだ。

黎氏にそのような決断をさせたのは、カトリック教徒としての信仰だった。香港にとどまり自由を守る闘いを続けることが、神から与えられた使命だと信じたのである。新聞を「リンゴ日報」と名付けたのも、人間に善悪の知識を与えた聖書の「禁断の果実」のように中国の真実を伝えることを使命と考えたからだ。

そんな黎氏の決意を支えたのが、敬虔(けいけん)なカトリック教徒である妻の李韻琴さんだ。黎氏をカトリックに改宗させたのは彼女だった。

黎氏が民主派の盟友、陳日君枢機卿(すうききょう)から洗礼を受けた際、代父として立ち会ったという米紙ウォール・ストリート・ジャーナルのコラムニスト、ウィリアム・マクガーン氏によると、李さんは黎氏と結婚した時から、夫が逮捕される日が来ることを覚悟していた。李さんは黎氏の逮捕時にこう伝えたという。

私はあなたの妻です。あなたと一緒にこの道を歩んでいくわ。でも、あなたは自分の十字架を背負い、それを受け入れなければなりません――と。十字架を背負うことから逃げてはならないと諭す妻の信仰がなければ、黎氏は絶対にこのような覚悟はできなかっただろう。

マクガーン氏によれば、黎氏は刑務所内で新たな使命を見いだしつつある。それは宗教画家としてだ。与えられたわずかな紙と鉛筆でキリストの絵などを書いている。その絵が非常に優れていることから、中国当局は警戒し、他の人の目に触れさせないように黎氏が面会者に作品を渡すことを禁じたほどだ。

報道に携わる端くれとして、黎氏の生きざまに多くのことを考えさせられる。黎氏と同じ行動を取れるかと自問すると、自信は全くない。それでも、「ペンは剣よりも強し」という格言を実践し続ける黎氏の勇気を胸に刻み、今年1年も報道活動を通じて少しでも社会貢献したいと思う次第である。

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