
編集委員 池永 達夫
東南アジア最後のフロンティアはミャンマーとベトナムとされていた。
そのミャンマーは民主化に大きく動いたかに見えたが、2021年2月のクーデターで軍が全権を掌握。軍事政権下で経済は低迷、地方の少数民族武装組織も軍と対立を深め、治安も悪化した。
一方のベトナムの躍進ぶりが顕著だ。
ベトナムは共産党一党独裁政権ながら、中国や北朝鮮とは違って強権統治型ではない。地方自治も重視するし、国営企業が民間企業を圧迫することも少ない。
中国では共産党が統括する国有企業が力を強め、民間企業の自由な活動に圧力を加える「国進民退」現象が顕著だ。
またIT企業や学習塾を締め上げて、新卒就職先の門を極端に狭くしてもいる。中国では、過去最悪となっていた若者の失業率が7月以降、公表停止になったまま途絶えている。
この点、ベトナムは中国を反面教師にしたような開放政策と、民間企業のパワーを引き出す形での産業育成に成功している。
その典型例がベトナムの格安航空会社(LCC)ベトジェットエアの大躍進だ。
今年1年の国際線旅客総数で民間会社にすぎないベトジェットエアが、ナショナルフラッグの国営ベトナム航空を凌駕(りょうが)することがほぼ確実となった。
ベトジェットエアの国内線と国際線を合計した今年の旅客総数は2500万人が見込まれている。
20年以後のコロナ禍で航空業界は、どこも乱気流に巻き込まれた格好となったものの、今年に入ってコロナ禍は一段落。ベトジェットエアはドル箱路線のハノイ―ホーチミン線で財務体質を強化しただけでなく、その収益を国際線拡充に投資し成長路線を描いた。
これが功を奏し、東京―ハノイ、ホーチミンやソウル―ハノイ、ホーチミンなど海外旅行客の上昇気流に乗る形で、大幅な航空旅客数のすくい上げに成功した。
ベトジェットエアは今年、ハノイ・ジャカルタやホーチミン・豪アデレード、ニャチャン・ウランバートル線など新路線を相次いで就航させてもいる。しかも平均座席利用率は85%と高水準を保っている。
結局、ベトジェットエアはこの1年間で32路線の海外航路を増やし総数80路線へと拡張、経営難で航路拡大路線にブレーキがかかるベトナム航空を路線数でも凌駕した。
筆者も先月、成田―ハノイでベトジェットエアを利用した。航空運賃は往復で4万円台と格安、座席は9割以上埋まって窮屈さはあったものの、勤勉で事務能力の高いベトナム人スタッフのおかげで心地よい旅を満喫できた。
ベトナムで民間企業は雇用の受け皿になっているだけでなく、柔軟対応で市場を取り込むパワーを発揮できるしイノベーションを生み出すエンジン役も果たしている。その活力こそが、ベトナム経済の牽引(けんいん)役を担っている。