【記者の視点】活躍する登山ガイドたち 独特の視点から山々を紹介

客員論説委員 増子 耕一

テレビの登山番組でも、作家の書く小説でも、近年、しばしば登山ガイドが登場する。作家・湊かなえさんの小説「後立山連峰」(『残照の頂』幻冬舎)にも登場して、初めて北アルプスの五竜岳に登るという、夫を亡くした主人公に、登山ガイドが登山日程を説明し、山への思いを聞き、ストックの長さを調整したり、準備運動のストレッチの指導をしたりする。

日本で、一昔前は、そのようなガイドは少なく、登山者たちはさまざまな山の会に所属して、知識や技術を自分で学ぶことが多かった。

『山と渓谷』(山と渓谷社、2019年1月号)の特集「登山の現在形」によると、丹沢・塔ノ沢での登山者への取材から、現代では「意外に初心者が多かった」ということが判明し、登山経験ゼロの人が、身の回りにいた経験者にお願いして連れてきてもらっている、という構図が浮かび上がったという。登山スタイルも単独、夫婦連れ、友人同士、山岳会、大学のサークル、職場の仲間などさまざま。

「後立山連峰」の主人公も登山経験がなく、ガイドは力強いサポーターとなる。こうした山岳ガイドは近年、増えてきており、そのおかげで登山番組も豊かな内容を盛り込むことができるようになった。

今月5日放送されたNHKBS「にっぽん百名山」の「東北アルプス・飯豊連峰」では二つのルートが紹介された。福島県側から江戸時代の「飯豊山山道絵図」に書かれた道をたどるルートと、山形県側から石転ビ沢雪渓をたどって大日岳に至るコースだ。

この山をよく知っている人たちにとっても、江戸時代の人々の世界観と登山の作法を、ガイド長谷川和之さんが話してくれた山への理解は新鮮だった。また山形大学のワンゲル部出身でマタギになったという金野伸さんの案内も面白かった。一般の登山者が登らない長大な雪渓をたどった末に、尾根で熊を見つけるというのもマタギならではの山の把握の仕方だ。

かつて『日本百名山』の著者、深田久弥が飯豊山を縦走した時、案内してくれたのは、この山塊を熟知した藤島玄という新潟市在住の人物。彼は、この山塊で登山道を付けたり山小屋を建てたりする開発に力のあった開拓者。「日本のどの山も皆つまらない。飯豊のような山は他にない」という藤島の言葉に惹(ひ)かれ、深田は、それを確かめるべく、残雪、お花畑、高原、池塘(ちとう)とたどったのだった。

藤島がいてくれたからこそ、心行くまで山旅を楽しみ、安全も確保された。そればかりか、執筆に必要な情報も提供してもらったのだ。

現代の山岳ガイドたちの多くは大学の山岳部やワンゲル出身者で、海外登山の経験も豊富。一流のアルピニストたちなのだ。だからこそ日本の山の良さも知っている。

『奥会津 山旅』を書いた柏澄子さんは、「アルピニズムを継ぐ人々」というウェブの連載で、ヨーロッパで培われた登山の歴史が日本のアルピニズムにも結実していることを語る。フランスの名ガイド、ガストン・レビュファの著書は愛読書で、山と人を愛するレビュファの思想は、柏さんにも受け継がれている。

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