【記者の視点】中東有事、高笑いの中国 台湾併合に執念燃やす習氏

編集委員 池永 達夫

米国はパレスチナのイスラム原理主義組織ハマスの大規模攻撃を受けたイスラエルへの「揺るぎない支持」を表明し、空母打撃軍も急派させた。

ほくそ笑むのはイスラエルとサウジアラビアが始めていた国交正常化交渉にくさびを打つことになるイランだけではなく、台湾併合の野心を隠さない中国も内心「高笑い」だ。

米国はオバマ大統領時代に、二正面作戦を放棄した。

二正面作戦というのは、離れた二つの戦線で、二つの異なった敵と戦える状態をいう。古来、戦力分散を余儀なくされる二正面作戦は、避けるべきものとされた。孫子の兵法もクラウゼウィッツなどの戦争論でも、「敵を撃破する上で重要なのは、軍事力の一点集中」と強調し、「二正面作戦」を望ましくないものとした。

ただ、米国はそれまで二つの戦争と一つの紛争を処理できる2・5正面作戦能力を維持することで、パックス・アメリカーナ時代を構築してきた経緯がある。

その意味では、ロシアの侵略をはじき返すウクライナの後ろ盾になっている米国は、イスラエルの安全保障を脅かすハマスの武力攻撃が加わることで、主要軍事力を東欧と中東に張り付けざるを得ない状況に追い込まれる可能性がある。

「中国の高笑い」というのは、戦火に見舞われているウクライナと大規模攻撃を受けるイスラエル支援に回らざるを得ない米国が、いずれ対中融和路線に転換せざるを得ないだろうとの読みが働いているからだ。

折しも9日、習近平国家主席は北京訪問中の米上院民主党トップ・シューマー院内総務率いる超党派議員団と人民大会堂で会談し「協調と協力が必要」と両国の関係改善に意欲を見せた。習氏とすれば、半導体規制などで中国経済を締め上げる米国の対中規制解除に持ち込むため、11月のサンフランシスコAPEC(アジア太平洋経済協力会議)首脳会議で米中首脳会議に漕(こ)ぎ着けたい意向と考えられる。

台湾併呑(へいどん)を意味する中台統一は、蒋介石が率いた国民党との内戦で勝利した中国共産党の悲願だ。習氏は、その悲願達成を自分の手で成し遂げようともくろむ。

建国の父である毛沢東は、台湾併合はできなかった。開発途上国にすぎなかった中国を米国に次ぐ世界第2位の経済大国に押し上げた鄧小平も香港返還までは漕ぎ着けたものの、中台統一まではいっていない。習氏がこれを成し遂げれば、毛沢東・鄧小平を超えることになる。

その台湾併合に向け強烈な執念を燃やす習氏にとって、最大の障壁は米軍のパワーだ。その米軍パワーをそぎ落とすことにつながる中東の戦乱は、習氏にとって歓迎するところだ。

国民党と内戦中の毛沢東時代、圧倒的多数の農民が居住する「農村から都市を包囲する」という「農村工作重点主義」の革命戦略が功を奏した。毛沢東に畏敬の念を抱く習氏が燎原(りょうげん)の火のような「戦火が米国を包囲する」作戦に出てくることこそ警戒すべきだろう。

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