編集委員 床井 明男
帝国データバンクが毎月発表している食品の値上げ品目数。10月は4634品目で、前月(2148品目)の2倍超となった。
「10月もまた、こんなに値上がりするのか」――このニュースに接して、消費者の多くが抱いた感情だろう。今年になってからも、2月5639品目、4月5256品目などと発表され、数字の大きさには多少驚かなくなってきたが、それでもこの多さだ。
食品値上げの品目数は1~10月で3万を超え、今年1年間では3万2000台に上るとの見通しで、「異常な値上げ」だった昨年(2万5768品目)を2割強も上回る。
週末は家内に付き添って近くのスーパーまで買い出しに出掛けるが、店内を巡っては家内から「これ、また高くなった」とのぼやきをたびたび聞く。この夏の酷暑の影響で野菜が異常な高値になっていることもあり、買い控えが進むのも頷(うなず)ける。
わが家の近くにはスーパーが4店、さらにディスカウントストアや業務スーパー、ドラッグストアもあって、いわば商業激戦地。その中を家内は「ここは〇〇が安い」「あそこは△△が……」と選別し上手(うま)く立ち回っているようだ。
帝国データによると、それでも値上げ品目数は、3カ月連続で前年同月を下回り、「値上げの勢いは後退傾向にある」という。現時点での値上げ予定も、11月83品目、12月504品目と「小康状態」。来年1月も22品目と少なめで、消費者にとっては朗報となるに違いない。
値上げの勢いが鈍化している背景としては、前年の原材料価格上昇分について価格転嫁が進んだことや、今年になってから原材料価格に一服感が見られ、輸入小麦が10月期から11%値下げになった(9月12日)ことなどがある。
消費者を取り巻く足元の経済はまだ、明るいものではない。はっきり言って厳しい状況が続いている。
今年の春闘賃上げ率は3・6%と30年ぶりの高水準になったものの、消費者物価が8月は前年同月比3・1%上昇で、上昇は24カ月連続、3%以上でも12カ月連続で家計を圧迫している。
物価の変動を反映させた実質賃金は、最新の7月で前年同月比2・5%減となり、マイナスは16カ月連続、賃金の伸びが物価上昇に追い付かない状況が続いているのだ。
このため、7月の家計調査による1世帯当たりの消費支出は、実質で前年同月比5・0%減少した。マイナスは5カ月連続で、減少幅は2021年2月以来の大きさとなり、節約志向が強まっていることを裏付けた。
ただ、食品の値上げ品目数が減少して小康状態になる今後はどうなるか。
9月下旬にはイオンなど一部の小売業界で値下げの動きが出てきた。政府も物価高の抑制へ、経済対策での電気・ガス代の負担軽減やガソリン補助金の延長を検討中だ。
消費を回復するには実質賃金をプラスにすることが欠かせない。もちろん、来年の春闘でも今年と同様の賃上げ実現が肝心だが、それには物価高の抑制が大きな援軍になる。経済対策には値下げの動きとともに、そうした目的に十分に資する内容を期待したい。同時にそれに逆行する円安には要注意だ。