編集委員 池永 達夫
タイの総選挙は革新系野党・前進党が第1党となり、22日、タクシン派の貢献党を含む7党と連立政権樹立に向けた覚書を締結した。親軍党2党は議席数を合計しても、前進党の半分でしかなく惨敗だった。
前進党に追い風となったのは、第1党候補と取り沙汰されたタクシン派の貢献党が、親軍党と組んで連立政権を樹立するのではないかとの観測が出たことだ。
クーデター以後、ほぼ9年続いた親軍政権に飽き飽きしていたタイ国民は、これで貢献党に見切りをつけ、反軍姿勢を鮮明にし続けて筋を通した前進党に票を投じる人が、都市部若年層を中心に急増したもようだ。
ただ元来、タイでは軍人に対するシンパシーは強い国柄だ。クーデターが起こっても、バンコク市民は軍人に花束を差し向けるほどだ。これは軍のクーデターに対する抗議の皮肉を込めたものではない。
バンコク市内のルンピニ公園そばでは、しばしば白い軍服姿の下士官を見掛けたが、市民たちの憧憬(しょうけい)の念を感じもした。
それがなぜ軍政がこれほど嫌われるようになったのか?
それは9年前、政権与党のタクシン派と反タクシン派が国を二分するほどの混乱を招いた時、国家の危機として受け止めた国軍がクーデターで実権を握ったまでは良かったのだが、調停役のはずだった国軍がいつまでも政権に固執し続けたことにタイ国民は嫌気が差したことによる。
しかも、9年近く続いた親軍政治は当初こそ、国家の発展のため筋を通した経緯があるものの、そのうち利権政治へと堕したことで国民の失望を買うようになった。
一番、いい例が電気自動車政策だ。
現在、バンコクの新車展示場には、中国製電気自動車がずらりと並び、廉価でタイ国民の購買意欲も高い。これはプラユット前政権が、電気自動車関税をほぼゼロにしたためだ。
同政権は電気自動車がこれほど、世界市場を席巻するほど大きく伸びてくるとは予測できず、せいぜいゴルフカートぐらいのマーケットだろうと高をくくっていた。
だが、この失政で東南アジア最大の自動車生産国であるタイは、これから厳しい未来を迎えることになる。こうした経済政策の脇の甘さに、とりわけ都市部の若者たちが「軍政NO」の意思を鮮明にしたもようだ。
それにしても、選挙制度を小選挙区比例代表並立制にして四半世紀近くたっているのに、一向に成果は上がらない。
元来、同制度導入の背景には多政党による連立政権が続いた結果、利権だけを漁(あさ)るビュッフェ政治から脱却するため、二大政党を育成しようとの思惑があったが、いつまでたっても多くの少数政党を巻き込んだ連立政権ばかりが続く。





