トップオピニオン記者の視点【記者の視点】米に浸透するマルクス主義

【記者の視点】米に浸透するマルクス主義

「文革の再来」と在米中国人

編集委員 早川 俊行

2021年6月、米FOXニュースに出演した中国出身のシー・ヴァンフリートさん(同ニュースの番組より)

米西部ワシントン州にウィットワース大学というプロテスタント系の私立大学がある。その学生自治会がこのほど、保守系学生団体が企画した講演会の開催を認めない決定を下した。

講演する予定だったのは、シー・ヴァンフリートさんという中国出身の女性。シーさんは2021年、南部バージニア州ラウドン郡の教育委員会が開いた公聴会で、米国の制度には人種差別が組み込まれているとする「批判的人種理論(CRT)」を学校で教えることに猛反対する討論を行った。中国で毛沢東の文化大革命を体験した過去を踏まえ、CRTは国民を分断するマルクス主義に基づいた「中国文化大革命の米国版だ」と訴えたのだ。

この発言がFOXニュースなどで取り上げられたことで、一般の主婦にすぎなかったシーさんは、保守派の間で一躍時の人となった。その後も、米国社会の左傾化に警鐘を鳴らす主張をツイッターで発信し続けている。

ウィットワース大学の学生自治会は、シーさんの主張が「人を傷つける」「攻撃的」として講演開催を却下した。米各地の大学で近年、リベラルな学生活動家たちが保守派の講演を妨害する事例が相次いでいるが、その風潮はキリスト教系大学にも及んでいるようだ。

米メディア報道などによると、シーさんが米国にやって来たのは1986年。米国がだんだんおかしな方向に進んでいるとは感じていたが、文化マルクス主義が浸透していることを確信したのは、2020年に中西部ミネソタ州で起きた白人警官による黒人暴行死事件をきっかけに、各地で暴動や略奪などの破壊行為が繰り広げられたことだ。

「黒人の命は大切(BLM)」運動や極左集団「アンティファ」の活動家らが、歴史的偉人の銅像を引き倒す光景は、シーさんの目に文革時代にあらゆる伝統文物を破壊した紅衛兵の姿と重なって見えた。BLM運動は警察予算の削減を主張したが、紅衛兵が真っ先に行ったのは自分たちを取り締まる警察を解体することだったという。

「私にとっても、多くの中国人にとっても、共産主義から逃れてきたのに、米国で今、共産主義を体験するのは胸が張り裂ける」。シーさんはメディアの取材に心情をこう吐露している。

共産主義社会の悲惨さを肌身で知る立場から米国の未来を憂いているのはシーさんだけではない。13歳の時に母親と共に北朝鮮を脱出し、中国で人身売買された後、命からがら韓国に亡命した壮絶な経験を持つパク・ヨンミさんもその一人だ。現在、米国に住むパクさんは、米社会の現状を「法秩序もモラルも善悪もない。完全なカオスだ。すべてを破壊し、共産主義者の楽園の再建を望んでいるようだ」とまで述べている。

共産主義の悲劇を繰り返さないためにも、シーさんのように実際に共産主義社会を体験した人々の訴えに真摯(しんし)に耳を傾ける必要がある。それは米国の学生たちだけでなく、われわれ日本人にも当てはまることである。

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