トップオピニオン記者の視点【記者の視点】LGBT運動に揺り戻し 米リベラル紙が弊害を直視

【記者の視点】LGBT運動に揺り戻し 米リベラル紙が弊害を直視

米ニューヨーク・マンハッタンにあるニューヨーク・タイムズ紙本社(UPI)

編集委員 早川 俊行

米国を代表するリベラル紙、ニューヨーク・タイムズ(NYT)が叩(たた)かれている。メディアが批判を受けるのは珍しいことではないが、今回は様相が少々異なる。保守派ではなく、性的少数者(LGBT)の活動家たちが怒りを爆発させているのだ。一体、どういうことなのか。

NYT紙に先月送られた抗議文によると、LGBT問題に対する最近の同紙報道は「偏向」しており、特にトランスジェンダーの地位を貶(おとし)めているという。先月24日までに、同紙寄稿者1200人以上、メディア関係者や読者ら3万4000人以上が抗議文に署名したそうだ。

「NYT紙が極右ヘイト団体に追従しているのにはがっかりだ」。抗議文は「ヘイト」という言葉を使って痛烈な非難を浴びせている。ここまで言うのだからよっぽど悪意に満ちた一方的な報道なのだろうと思い、抗議文が特に問題視している2本の記事を読んでみた。

だが、どちらもこれぞジャーナリズムと呼べる本格的な調査報道だった。中でも昨年6月の同紙副読誌に掲載された特集は、未成年者の性別違和の治療方法をめぐり意見が分かれる状況を、医師や専門家ら60人以上への取材を通して浮き彫りにした秀逸な記事だ。

欧米では、若者が性別適合治療を受けたことを後悔する事例が相次ぎ、社会問題化しているが、この記事は専門家の間で、未成年者に副作用のリスクや不可逆性の高いホルモン療法や外科手術などを拙速に進めることに慎重論が出ていることを伝えている。トランスジェンダーの権利を否定するような記述は一切なく、この記事のどこが「ヘイト」なのかと思わず首をかしげてしまった。

米国の保守的な州を中心に未成年者の性別適合治療を制限する動きが広がっており、その根拠としてNYT紙の記事が引用されるケースが出ている。LGBT活動家からすると、こうした状況はNYTによる“裏切り”と映り、どうしても許せないようだ。

今回の騒動で浮き彫りになったのは、米国ではリベラルメディアまでもが行き過ぎたLGBT運動の弊害を直視し、客観的に精査する動きが出てきたことだ。

人気小説「ハリー・ポッター」シリーズで知られる英作家J・K・ローリングさんは、生物学的な性別の概念の重要性を主張したことで激しいバッシングを浴びているが、同紙の論説コラムニストは先月、ローリングさんは女性の権利を守るために戦っていると全面的に擁護する記事を執筆し、反響を呼んだ。

米国ではジェンダーイデオロギーへの批判をタブーとする風潮にようやく風穴が開けられつつあるが、対照的にわが国では、LGBTへの差別を禁止する法律を制定し、異論を封じ込めようとする動きが活発化している。

NYT紙が特集した未成年者の性別適合治療は、若者の人生を左右する問題だ。だが、差別禁止法はこうした重大な問題に対する客観的、科学的な議論さえも抑え込んでしまうリスクをはらんでいる。

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