政治部長 武田 滋樹
衆院憲法審査会の開催を巡り、立憲民主党と日本維新の会の不協和音が表面化する中、立民の泉健太代表が持ち出した「重馬場」論に注目が集まっている。
事の発端は8日予定の衆院憲法審の幹事懇談会に立民と共産党が欠席し、開催が見送られたこと。維新の馬場伸幸代表は「また、さぼり癖が出てきている」と立民の対応を揶揄。藤田文武幹事長はさらに踏み込んで、「立民が仮に審議拒否をすれば、政策合意は全てご破算にした方がいい」とまで述べた。
立民側は予算案審議中に憲法審を開かないのは慣例で、昨年の通常国会で憲法審の早期開催に応じたのは「(国会の)オンライン審議の憲法的位置付けを審議するため例外的に審議した」(泉代表)と主張するが、憲法改正が党是の一つである維新と、いまだに「論憲」を進める段階にとどまる立民との改憲に対する“温度差”が如実に表れたわけだ。
そこで飛び出したのが、泉氏の「重馬場」発言だ。泉氏は10日の記者会見で、「維新はすぐ自民党の誘いに乗ってしまう。これでは野党としては戦えない」としながら、昨年の臨時国会で立・維共闘が機能した旧統一教会被害者救済新法の例を挙げて、「政権与党から譲歩を引き出す重みとか慎重さとかは大事」と指摘。その上で、競馬の走路状態に例えて「与党にとって走りやすい状態をつくるのか、与党にとってどういう重みをつくるのか。(降雨などがなく水気を含まない)良馬場ではただ単に与党が走りやすいだけなので、馬場さんは重馬場であってもらいたい」と述べた。
馬場氏の姓をもじった駄洒落に対し、維新からは「人の名前をいじったらいけない。最低限のルールだ」(遠藤敬国対委員長)などの不快感が示された。しかし、泉氏は17日の記者会見でも「『重馬場』は悪口ではなく、与党に対してどう向き合うかを、馬場の状態で例えてみた話」だと述べ、改めて「与党に対して強い敵であること、与党が走りにくいわれわれとして監視役になることは大事なことだ」と持論を展開した。
既に多くのメディアが報じた泉発言に改めて焦点を当てたのは、ここに泉氏の野党観が浮き彫りになっているからだ。
泉氏の選挙区(京都3区)に京都競馬場があって、ちょうど維新代表が馬場氏だったので、泉氏は内心、競馬になぞらえて野党の在り方を馬場氏に教授しようとしたのかもしれない。しかし、そこで述べられているのは「与党が走りにくいわれわれ(野党)」とか、せいぜい「政権与党から譲歩を引き出す重みとか慎重さ」ぐらいのもの。つまり、国会で反対や駆け引きをしながら与党の譲歩を引き出す程度の万年野党の野党観にすぎない。
競馬を引き合いに出すのであれば、野党の役割は当然、大本命(与党)に隙あらばトップを奪う対抗馬でなければならないはずだが、競走馬の脚を引っ張る重馬場になれとは、何と志が低いことか。野党第一党の代表がこれでは、憲法改正の主役はもちろん、国会の主役にも当分なれそうにない。