トップオピニオン記者の視点【記者の視点】中国の新型コロナ 人口の80%が感染って本当?

【記者の視点】中国の新型コロナ 人口の80%が感染って本当?

編集委員 池永 達夫

中国疾病予防センターの呉尊友・首席専門家が先月下旬、新型コロナウイルスに関し「人口のおよそ80%がすでに感染した」と中国版ツイッター「ウェイボー」で明らかにした。呉氏は数字の裏付けとなる論拠も示さず、専門家にしては首をかしげるような演繹(えんえき)的報告だ。

事実なら総人口14億人のうち11億2千万人が感染したことになるが、ゼロコロナ政策緩和に転換し、事実上解除したのは昨年12月7日。それから2カ月も経過していない。1億231万人という世界最大の感染者を出した米国や2位インドの4468万人でさえ、3年間に及ぶ波状的感染を受けた総合計の数だ。

その経験値からすると、1カ月余で一気に11億人というのは無理がある。百歩譲って11億人の感染が正しかったとしても、中国疾病予防センターが発表した、12月8日から1月26日までの1カ月半余りの死者数が7万8960人というのも、これまでの経験値と合わない不合理な数だ。

3年間で米国の死者110万人、インド53万人が計上されており、感染者数と死者の割合からすると、約1%前後というところだろう。この平均値を中国に当てはめれば、感染者数11億2000万人の1%は1120万人となる。感染力は強いが重症化リスクは少ないオミクロン株ということを割引いて考慮しても、中国の数字はかなり首をかしげる。

人は見たいものを見る傾向がある。ゼロコロナ政策を撤廃した中国新政権が見たい景色は、中国が国民的免疫力を獲得し、経済再建のスイッチが入ることだ。

昨年10月の共産党大会で一強体制構築に成功した習近平総書記の最大の懸念は、経済不振による共産党政権の信任基盤崩壊だ。経済の安定こそは、共産党統治を支える生命線だからだ。それでなくても、2022年の不動産投資は前年比でマイナス10%、1999年以来初の減少を記録し、経済回復に疑問符が付いている。

折しも3月には習近平新政権の新たな布陣が整えられる。経済的苦境を乗り越え安定成長の軌道を描けるかの正念場だ。

ただ、国力指標の一つである人口はピークを打ち、人口減の坂を転げ始めた。中国の人口減現象は構造的な側面が大きく、今後も方向転換することなく下降が継続するもようだ。既に10年前には生産年齢人口が減少傾向に転じており、急速に進行し始めている高齢化社会を支える大黒柱は細るばかりで歯止めがかからない。

こうした構造的苦境を乗り越えるには、労働集約型の生産から高い付加価値を生み出す生産活動に切り替える必要があるものの、先端半導体などハイテクを軸に米中のデカップリング(分断)が深まっておりハードルは高い。

なお、不可解なのは1月8日に中国当局が国民に出した海外旅行の解禁だ。それほどコロナの爆発的感染が起きている最中であり、さらに変異株の発生も懸念される中、これではコロナウイルスを輸出しているようなものだ。改めるべきは、こうした中華式唯我独尊の体質だろう。

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