トップオピニオン記者の視点【記者の視点】マハティール氏とアンワル氏 マレーシアの一卵性双生児

【記者の視点】マハティール氏とアンワル氏 マレーシアの一卵性双生児

編集委員 池永 達夫

今回のマレーシア総選挙に97歳のマハティール元首相が立候補したのには、驚かされた。

4年前の総選挙では、マハティール氏率いる野党連合がナジブ・ラザク首相率いる与党連合に勝利して、マレーシア独立以来初の政権交代を実現させた。15年ぶりの首相復帰を果たしたマハティール氏は、この時、92歳だった。民主選挙で選出された首相としては、世界最高齢だった。政治家というのは強烈な権力志向がなければ生き残れない職種だと実感したものだ。

起き上がりこぼしのように政治家として復活を果たしたマハティール氏ながら、2度あることも3度はなかった。しかも惨敗というほどの敗北ぶりだ。マハティール元首相率いた祖国連盟は議席ゼロ。ランカウイ島から立候補したマハティール氏自身も落選。同氏が獲得したのは4566票だけ、預託金も没収された。

首相に就任したのは、野党第1党だった希望連盟党首のアンワル・イブラヒム元副首相だった。アンワル氏も起き上がりこぼしのような人だ。同氏は、1981年からのマハティール政権で教育相、財務相、副首相を務め、マハティール首相の後継者として嘱望されていた。

だが、97年のアジア通貨危機時の対応で、マハティール首相と衝突し政権から放り出されただけでなく、投獄の憂き目にも遭遇した。イスラム教ではご法度の「男色」や汚職疑惑を“でっち上げ”られたためだった。罪の捏造(ねつぞう)を確信させるのは、アンワル氏の妻ワン・アジザ氏と子供たちの投獄後も変わらぬ献身ぶりだった。たとえ妻であり子供であっても、人として尊敬できない夫や父親を全力で支援し続けることは難しい。

4年前の総選挙では、希望連盟から出馬して当選を果たし、マハティール氏から「後任に」との約束を得ていた。だが結局、この約束も反故(ほご)にされた経緯がある。

普通なら老体に鞭(むち)打って政界復帰を果たそうとするマハティール氏に対し、国民的支持は集まりそうだが、そうならなかった最大の理由は、かつてのナンバー2を1度ならず2度もドブに叩(たた)き落とし、約束も守れないマハティール氏に、国民はほとほと嫌気が差したもようだ。

そして今回、アンワル氏は75歳にして悲願の首相に就任した。だが、アンワル氏とマハティール氏は、起き上がりこぼしのような政治経歴だけでなく根底において似ているところがある。

2014年2月下旬、ホテルオークラ東京でアンワル氏を囲んだ勉強会(主催・笹川中東イスラム基金)に参加したことがある。

この時、アンワル氏は「アジア・ルネッサンス構想」に言及した。アンワル氏は、合理主義をベースにした西洋的近代化のひずみを、仏教や儒教、イスラム教などを生んだアジアの精神世界で補うという基本哲学を持っている。

これはマハティール氏が提唱したルック・イースト政策と同根だ。マハティール氏は、個人の利益より公的利益を優先する日本の労働倫理に学ぶことで、過度の個人主義や道徳の荒廃をもたらす西欧的な価値観を修正すべきだと考えた。

アンワル氏とマハティール氏は政敵だった期間が長かったが、心の根底では相通じる思想を持っている。

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