【記者の視点】宗教法人法の「質問権」行使 歯止めなき大衆迎合の危うさ

編集委員 森田 清策

永岡桂子文部科学相が世界平和統一家庭連合(旧統一教会)への宗教法人法に基づく「質問権」行使を正式発表した。先月17日、岸田文雄首相が文科相に質問権行使による調査を指示、今月8日にその基準が決まったばかり。文科相はそれに沿って迅速に最終判断を下したわけだ。

ここで違和感を持つ。首相がすでに行使を指示し、文科相も「年内のできるだけ早いうち」と明言していたことだ。質問権行使は初めてで、行使の基準がない中、いったい首相は何を基準に行使を決断したのか。

順序を言えば、まず行使の基準を決めさせ、それに沿って行使するか否かを判断するのが通常の手続き。しかし行使の結論ありきで、しかも日程まで決めた上で、基準を作らせるというのは事の後先が逆。後出しじゃんけんならぬ、「俺はパーを出すから、お前はグーを出せ」と指示するようなものだ。

宗教団体への「報告及び質問」を規定した宗教法人法78条第2項は、宗教団体に「質問させようとする場合」には「あらかじめ宗教法人審議会に諮問してその意見」を聞かなければならないと規定する。文科相は審議会に質問項目などについて諮問した上で、質問権を行使する方針だが、それは行使を決めた後のことで「あらかじめ」意見を聞いたことにはならない。

世論調査では、8割が教団の解散命令の請求に賛成するという。社会の空気と支持率低迷を背景に、質問権行使を政治利用する首相。あからさまなポピュリズムにブレーキをかける政治家や言論人は少ない。しかも宗教法人審議会も政府が示したスケジュール通りに手続きを進めており、チェック機能を十分働かせているとは思えない。

首相は先月25日、政府が確認している民法の法令違反22件では「過去に解散を命令した事例と比較して十分に解散事由として認められるものではない。報告徴収・質問権を行使することでより事実を積み上げることが必要だ」と国会答弁した。犯罪捜査で司法警察を指揮する検事のような感覚で、「有罪にするには証拠が足りないからもっと集めろ」と言っているようにも聞こえる。

同法78条第6項は「犯罪捜査のために認められたものと解釈してはならない」と、憲法が保障した「信教の自由」を守るため、質問権は抑制的に行使することを求めていることは無視されている。首相の焦りによる世論への忖度(そんたく)が日本の民主主義を破滅に向かわせているようで不気味だ。

だが、数は少ないにしろ、この状況を冷静に見ている宗教学者は存在する。島田裕巳氏は今月2日のラジオ番組(ニッポン放送)で、首相が解散命令の要件に民法の不法行為は「入らない」と言ったのを一夜で「入る」と一転させたことについて「岸田首相は、物事をあまり考えていない」と切って捨てた。さらに「(民法の不法行為で)解散させるところまで持っていくのは土台無理かなと思う」が、それでも解散請求した場合は「裁判所に蹴られるのではないか」と述べた。

パーソナリティーの辛坊治郎氏が「世論に忖度するような裁判官だったら」と問えば、「たまにおかしな裁判官がいるが、高裁、最高裁まで行き、そして常識的な判断が下るのでは」との見通しを示した。首相はじめ今の政界は常識的な判断が下せなくなっているということだろう。

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