【記者の視点】米政権の左翼思想「輸出」 異質の価値観を押し付け

2021年9月、米ニューヨークで開かれた映画イベントに参加したドラッグクイーンら(UPI)

編集委員 早川 俊行

米国で最近、「ドラッグクイーン」と呼ばれる主にゲイのパフォーマーが派手なメークと女装で激しく踊るショーが公共の場などで開かれている。もともとはゲイバーなどに限られていたショーだが、性的少数者(LGBT)への理解を促進する目的で表舞台で堂々と開かれるようになり、学校で行われるケースも出ている。

米国民の税金を使ってドラッグショーを公の場で開く取り組みは米国内にとどまらない。海外に「輸出」する動きもあるのだ。南米エクアドルの団体がドラッグショーを開く事業に米国務省が2万600ドル(約3億円)の補助金を支出したことが判明し、波紋を広げている。

この事業への支出は「米国の外交政策の目標・目的の達成を支援し、国益を増進し、安全保障を強化する」ことを目的として謳(うた)っている。だが、トランプ前政権で国家情報長官を務めたジョン・ラトクリフ氏は、ウォール・ストリート・ジャーナル紙への寄稿で、「ドラッグショーが米国の安全保障や国益にどのように寄与するのか」と疑問を呈した。これは大多数の米国民が抱く率直な疑問だろう。

米国のリベラルな価値観を輸出する取り組みは、むしろ国益を損ねていると言っていい。米国はオバマ政権時代、途上国に経済援助の条件としてLGBTの権利拡大を迫ったが、保守的な倫理観を保つアフリカ諸国などから、米国が文化的侵略を試みているとの批判が巻き起こった。米国の資金でドラッグショーが開かれるエクアドルは、多くがカトリック教徒であり、同じように文化的侵略と受け止める人は少なくないだろう。

米国の大学から広がるリベラルな価値観は近年、「ウォーク・イデオロギー」と呼ばれるが、途上国だけでなく先進国からも拒絶反応が出ている。中道左派のマクロン仏大統領でさえも、「米国から輸入された特定の社会科学理論」がもたらす悪影響を非難し、国内の教育機関に排除を求めたのだ。

あらゆる問題を差別の観点で捉えるウォーク・イデオロギーは、米国内で先鋭化する人種対立の背景になっている。イスラム過激派のテロの脅威に直面するフランスにとって、国民の分断を助長する思想を受け入れられないのは当然のことである。

全世界が米国の過激なリベラル思想に迷惑しているのだが、バイデン政権は全く意に介さない。それどころか、2023会計年度の海外援助予算でジェンダー平等を名目にウォーク・イデオロギーを輸出する事業に26億ドルを投じる方針を明らかにしている。

米ソ冷戦で西側諸国が米国の下に結集したのは、自由、人権、民主主義といった普遍的価値観が求心力となったからだ。日米同盟が今日まで強固な関係として存続する背景にも価値観の共有がある。

米中新冷戦の時代に突入しつつある今、米国は中国の覇権を阻止するために、一つでも多くの国を引き付けることが求められている。だが、バイデン政権による異質な価値観の押し付けは、逆に各国を米国から遠ざけかねない。

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