極超音速ミサイルなどで米に先行
編集委員 池永 達夫
昨年、米インド太平洋軍司令官だったフィリップ・デービッドソン氏は、中国人民解放軍が2027年までに台湾に武力侵攻する可能性を指摘した。

27年は中国軍創設から100年の節目に当たり、習近平国家主席は同年に「奮闘目標を実現する」としている。だが最近はこれよりも早期に、台湾に武力侵攻する可能性が指摘されるようになってきた。
マイク・ギルディ米海軍作戦部長は19日、中国による台湾侵攻が来年までに起きる可能性を排除できないとの見方を示し警鐘を鳴らした。
孫子の兵法の国である中国は、基本的に負ける戦争はしない。孫子の兵法では、「戦って勝つのは愚策、戦わず勝つのが上策」という認識だ。
だから中国がまず狙うのは、戦わず台湾を併合するというものだ。台湾を外交的にも経済的にも孤立させ、台湾自身が自発的に中国による併合を求めるように仕向けるというものだ。
中国がこれまで台湾の国民党が総統選や地方選で勝利できるように画策してきたのも、現状維持を基本方針とする民進党相手では、いつまでたっても武力を用いない台湾併合はかなわないと確信しているからに他ならない。
その意味で中国が台湾への武力侵攻に踏み切るとしたら、台湾自身が中国による併合受け入れを選択するという政治的合意の道が途絶えたときか、中国国内で習近平政権が政治的に追い込まれ、戦争以外に政治的求心力を回復する手だてがなくなったときか二つに一つだ。
それでも圧倒的武力を持つ米海軍を相手に勝利できるシナリオなしには、中国が安易に動くことはないだろう。
台湾への早期武力侵攻論の根拠の一つは、圧倒的武力を持っているはずの米軍の武器弾薬が、ウクライナに21回の大規模な武器支援を行ったために、すでに多くの分野の兵器の在庫が消費され、米海軍もその余波を受けているというものだ。
だが武器弾薬の在庫は機密中の機密事項であり、その鮮明な情報を抜き取るのは簡単なことではないし、米国の国力からして武器弾薬の補充生産能力は高いものがある。
ただ、二つの点で中国人民解放軍は自信を深めている可能性が高い。一つは、中国人民解放軍は初期段階とされながらも配備済みの極超音速ミサイル「東風17」だ。
米軍の防空システムを突破でき「空母キラー」の異名を持つ極超音速ミサイルは、音速の5倍以上の速度で飛行し軌道の予測が難しく、現在のレーダーでは追跡が困難だ。米軍は極超音速ミサイル開発で中国に後れを取っているばかりか、同ミサイルの探知・追尾能力がいまだ十分でなく、対中防空の網に穴が開いている状態にある。
さらに中国人民解放軍には、米軍に先行して配備している量子暗号通信の強みもある。サイバー空間の「万里の長城」と呼ばれ、外から盗聴しようがない量子暗号通信で、外敵から完璧に防御する巨大な暗号ネットワークを構築している。この量子暗号通信は、米軍の伝統的暗号を解読する能力を持っているともされる。
この米軍の弱点と中国人民解放軍の強みを活用した作戦が功を奏し、1週間程度の短期決戦で勝利できると確信すれば、中国が武力侵攻する誘惑に駆られないとも限らない。