トップオピニオン記者の視点【記者の視点】朝令暮改の不安 危機対応、自由擁護は可能か

【記者の視点】朝令暮改の不安 危機対応、自由擁護は可能か

政治部長 武田滋樹

ウクライナ戦争の長期化、止まらぬ円安と物価高騰、「強軍」加速の中国や核ミサイルの戦力化を急ぐ北朝鮮…。内外の懸案が山積する中で、臨時国会序盤の焦点となる衆参両院の予算委員会は世界平和統一家庭連合(旧統一教会)をめぐる論戦に異常な関心が集まった。中でも岸田文雄首相が宗教法人法に基づく同教団の解散命令の要件について「民法の不法行為は入らない」と言い切った翌日に、「民法の不法行為も入り得る」と百八十度異なる答弁を行ったことは、与党だけでなく首相を追い込んだ野党からも「朝令暮改」「法治国家と思えない」という皮肉交じりの批判の言葉が飛び出した。

岸田首相の“朝令暮改”は今回が初めてではない。コロナ感染で療養中の8月24日、オンラインでの記者会見で、新型コロナ感染者の「全数把握」を見直し、都道府県の判断で、対象を限定できるようにする方針を発表。ところが、東京や大阪、北海道などの知事から「丸投げ」批判が相次いだことから、2日後の26日に全数把握の見直しは「9月半ばにも全国一律で実施する」と方針転換した。

朝令暮改が必ずしも悪いわけではない。過ちがあれば速やかに改めることは、指導者として重要な徳目の一つでもある。しかし、いくら「聞く力」が売りものだとしても、こう頻繁に朝令暮改が起こると、官邸のガバナンスはどうなっているのか、不安になる。

最初の方針に対するリアクションはある程度予想できるのだから、1日や2日の検討で転換が可能なら、なぜ発言前に周到な準備をしなかったのか。国会対応ぐらいでこのありさまなら、本当の国家的危機に直面した際にうまく対応(危機管理)ができるのか…。

一方、宗教法人の解散命令に至る行為については、東京高裁が1995年の決定で「社会通念に照らして該当宗教法人の行為であるといえるうえ、刑法等の実定法規の定める禁止規範又は命令規範に違反するもの」との判断を示している。今回の解釈変更は「刑法等」の「『等』には民法も含まれるという判断」(首相)なのだという。

このような解釈が可能なのかどうかは、最終的に司法が決めることになるが、首相は立憲民主党の質問攻勢に押される形で、政治的な判断によって解釈変更を推し進め、宗教法人に対する解散命令のハードルは大幅に低くなった。これはすなわち政治の宗教に対する影響力が大きくなったことを意味する。

共産党が統治する中国でも憲法は「宗教信仰の自由」を明記しているが、同時に「国家は正常な宗教活動を保護する」とも書かれており、何が「正常な宗教活動」かどうかは国家が判断するので、結局、宗教は国家の統制下に置かれ、自由民主主義社会のような信教の自由は享受できなくなる。

政府がマスコミや世論に押されて「正常な宗教活動」の枠組みを決めるようなことは、あってはならないはずだ。

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