サンデー編集長 佐野 富成
今や日本を代表する文化の一つとなった漫画とアニメ。ロシアのウクライナ侵攻をきっかけに一つの漫画作品がひそかに注目を集めている。
その漫画作品とは「ライドンキング」(2018年発表、馬場康誌著、8巻まで発売)。同作品は異世界転生物と言われるもので、とある架空の国の大統領が、ある事件に見舞われたことで異世界に転生、その世界で大活躍するというものだ。主人公である大統領がロシアのプーチン大統領にそっくりだというのだ。名前もプルチノフ大統領という。確かに絵柄を見ると似ていなくもない。
日本の漫画作品には、こうした何かしらをモチーフにした作品が多く存在し、有事に対してのシミュレーションとも取れる作品もある。
14年に発表された漫画「空母いぶき」(かわぐちかいじ著、全13巻)は、尖閣諸島をめぐる問題を軍事面からシミュレートした作品でもある。原案協力に作家でジャーナリストの惠谷治氏が関わっていた。
話は、嵐の中で遭難者として偽装し、尖閣諸島の南小島に上陸した中国の工作員が、「この島は中国固有の領土であり、中国本土の船舶を待つ」と主張する「尖閣諸島中国人上陸事件」が勃発、中国警備局と海上保安庁との衝突など、その奪還までを描いている。実写化もされ、話題となった。
現在は北方ロシアとの攻防を描いた続編の「空母いぶきGREAT GAME」が発表され現在単行本が7巻まで発売されている。
こうした漫画作品が出ているのは日本くらいなもので、海外にはない。小説版や軍事専門書などは、海外にはあるが漫画となると見たことがない。
日本の漫画・アニメは、今や2兆円産業と言われるまでに成長した。国内よりも国外での利益が高くなるまでになった。制作会社の低賃金問題など産業構造としては、ややいびつさはあるものの、日本を代表するまでになった。
日本の漫画・アニメのジャンルの多さは他の追随を許さない。日本の漫画やアニメの最大の武器は、スポーツやアクション、青春ラブストーリー物を扱う一方で、政治・軍事、経済物も存在する。
かわぐちかいじ氏の漫画作品は安保・国防という点を読者に考えさせる作品が多い。
「空母いぶき」のほかにも最新鋭のイージス艦が第2次世界大戦の真っただ中の太平洋に放り込まれてしまい、憲法9条など現代の法律に悩みながらも最低限の決断を下しながら歴史の流れに巻き込まれていく自衛隊員たちを描いた「ジパング」(2000年発表)や潜水艦戦を描いた「沈黙の艦隊」(1988年発表)といった作品を発表している。
かつて、日本では「漫画を読むと馬鹿(ばか)になる」という言葉が流行(はや)ったことがあった。しかし、今は「漫画で学ぼう」という流れになっている。
日本の漫画・アニメ作品の中には時代を先取りしたものも多く、海外のファンの中には「日本の漫画とアニメは未来を予測する」といった発言をする人もいる。
日本のサブカルチャー文化には底知れぬ可能性を秘めていることは間違いない。国の文化戦略を改めて、見詰め直すことも必要なのではないだろうか。