編集委員 森田 清策
東京都の小池百合子知事は今年11月から、いわゆる「性的マイノリティ」カップルの関係を結婚相当と“公認”する「パートナーシップ宣言制度」を導入する予定だ。そのための人権尊重条例改正案が今開かれている都議会で審議中だ。
同様の制度はすでに200を超える自治体が導入している。しかし、そのほとんどは首長権限で決めることができる「要綱」、つまり自治体の行政事務処理マニュアルによる導入にとどめ、条例を制定するケースは少ない。
条例を制定する以上は、言葉の概念が明確でなくてはならない。拡大解釈で混乱を招き、時には制度の悪用も起きるからだ。この点、筆者は懸念を抱いている。
都が提出した改正案によると、制度の対象は「双方または一方が性的マイノリティ」で「日常の生活において継続的に協力し合うことを約した2者」。では、「性的マイノリティ」とはどんな人を指すのかというと、「性自認が出生時に判定された性と一致しない者または性的指向が異性に限らない者」としている。
前段の性自認とは、自らの性をどう認識しているかと意味し、当事者は心と体の性が一致しない「トランスジェンダー」を指す。しかし、これは非常に曖昧な概念で、「自称トランスジェンダー」が出現しても不思議ではないが、それをチェックする制度設計にはなっていない。
この問題をはらむ性自認に、後段の性的指向が重なると、さらに複雑になる。性的指向について、現行条例は「自己の恋愛または性愛の対象となる性別についての指向のこと」と定義する。つまり、性的マイノリティについての考え方は、人間には心と性の二つの性があるだけでなく、性的指向にも恋愛と性愛の二つがあるという前提で成り立っている。
では、異性愛者か同性愛者かは心と体の性のどちらで決まるのかというと、“LGBT界隈(かいわい)”は「レズビアン、ゲイはこころの性で決まる」(岐阜県関市のハンドブック「イチから学ぼうLGBT」)としている。この考え方からすると、体の性が女性同士でも、共に性自認が「男」なら「ゲイ」ということになる。
もっと現実に起こりそうな例を挙げる。戸籍上の男女カップルでも、一方がバイセクシャル(両性愛者)であれば性的マイノリティとして制度の対象になるが、そうでない場合は対象外。ならば、「バイセクシャル」と偽って、制度を利用するケースが出てもチェックできないのである。
さらに、性的指向がない人も存在するから、性的マイノリティの概念は無数に広がり、結局「誰ひとりとして同じ『性』をもっている人はいない」(前出のハンドブック)ということになる。これだと、人間を性的マイノリティとマジョリティを分けること自体が無意味であろう。
そんな矛盾した考え方と曖昧な概念の文言で作成された条例を成立させることは、既存の男女観や性倫理を崩壊させて、性のアナーキー状態をつくり出してしまう恐れがある。行政へのチェック機能を担う都議会がそこに気付いていることを願っている。