トップ社会LGBT誰もが「性」の当事者で、人格が問われる

誰もが「性」の当事者で、人格が問われる

肩を組む男女のイメージ(Unsplash)

《 記 者 の 視 点 》

「LGBT」が問うものは、性をどう生きるのかという視点

自治体が同性カップルを公認する「パートナーシップ制度」導入を検討していたある自治体の首長と膝を交えて意見交換を行った時、政治家に「下半身」の話をするのは野暮かと思いながらも、次のように問い掛けたことがある。

「市長、LGBT(性的少数者)の人権問題が議論されているが、“性”に真剣に向き合っている議員はどれほどいると思うか。市長はどうか」

「答えに窮するね」と、その市長は苦笑いした。「そんなこと、俺に聞くな。世の流れだから仕方がない」と言いたかったのだろうが、LGBT支援策を打ち出そうとしている手前、本音は口に出せず逃げるしかなかったのだろう。

LGBT当事者への差別に反対し人権を守ることのどこが間違いか、と問われたら誰も反論できない。しかも「性的指向」「性自認」などの概念を持ち出し、性に関する個人のアイデンティティーを考えさせる枠組みはLGBT運動から生まれたもので、一般人が理解するのは難しい。

だから、日ごろ、性に向き合っていない政治家が支援に乗り出すと、必然、活動家が敷いた、性欲・愛欲を個人のアイデンティティーに矮小(わいしょう)化させるレールに乗せられてしまう。筆者は、性においては誰もが当事者で、自己の欲望に向き合いながらどう行動し、どう生きるのか、そこで人格が問われると思っている。冒頭の市長の自治体はその後、パートナーシップ制度を導入した。

同制度はすでに約150自治体で導入されている。現在、注目されるのは東京都の動きだ。首都での導入は他の自治体や国政への影響が大きいが、都も他の自治体と同様に、首長、役人、議会がLGBT問題に真摯(しんし)に向き合い議論しているというよりも、活動家の誘導通りに進んでいるように見える。

制度導入を打ち出した小池百合子知事は6月の都議会で人権尊重条例を改正し、今年秋から制度をスタートさせる方針だ。昨年秋には、有識者ヒアリングを終えたが、選ばれた有識者13人には、LGBT活動家として知られる当事者や支援者の名前が並んでいる。また、今月末まで都民からの意見募集(パブリックコメント)を実施しているが、性の問題を他人事(ひとごと)ではなく自分事として意見を述べることができる都民はどれほどいるのか。

都総務局人権部が11日まで公開した性自認及び性的指向に関する都民向けオンライン講座を見た。自分が同性愛者だったらどうするか、家族にトランスジェンダーがいたら、どう接するか。あるいは既婚者の場合、配偶者にどんな性的態度を示すのか。そんなことを自問自答してきた筆者からすれば、突っ込みどころが多い内容だったが、一つだけ問題点を指摘したい。「アウティング」(許可なき暴露)の問題だ。

例えば、知人から「同性愛者」とカミングアウト(打ち明けられた)された場合、本人の許可を得ずに他者に教えることは厳禁という。しかし、これでは片務的で、対等な人間関係は築けない。誰にも相談できずに一人秘密を抱え込む側から見れば、これも一つの人権軽視である。自己の性に真摯に向き合う性的少数者は、当事者以外の人たちの内心への配慮も忘れないだろう。今のLGBT運動には性的少数者が、自らの性をどう生きるのかという視点が欲しい。


社会部長 森田 清策

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