記者の視点
次は台湾? 不気味な中国の存在感
用意周到に図られたロシア軍によるウクライナ攻撃・侵攻。サイバー攻撃で通信環境を混乱させ、その間にミサイル攻撃でウクライナの防空体制を無力化し、3方向(ウクライナ東部地域、クリミア半島、ベラルーシ側)から一気呵成(かせい)に地上部隊を投入した。
軍事力という点では圧倒的にウクライナが劣る。そのため首都キエフをロシア軍が落とすのは容易だろうといわれている。ウクライナ軍ができることは、欧米からの武器支援に頼りつつ、ゲリラ戦を展開して国としての抵抗を試みるしかない、との見解が今のところ多い。
北大西洋条約機構(NATO)に加盟していない以上、欧米諸国はウクライナへ軍を動かして支援することは現状難しい。そうはいっても、かつてウクライナに対し核兵器の放棄と有事が起きた際の支援を約束した手前、何かしらの支援はあるだろう。
このロシアのウクライナに対する攻撃に、中国の台湾有事に置き換える人が多くなってきている。中国とロシアは今のところ友好的な関係にあり、今回のウクライナへの攻撃・侵攻に対しても中国はロシアを「地政学的見地」から理解を示している。その一方で、欧州に天然ガスを輸出しているロシアに対し、今後、欧州各国は不買へと動く可能性がある。そこで行き場のなくなったロシアの天然ガスは、世界第2位の経済大国、中国が買うのではないかと言われ、ある種の不気味な存在感を示している。
もしウクライナでロシア有利の形で事態が進んでしまえば、今度は中国が台湾に対して何らかの形で仕掛けてくる可能性も否定できない。逆にロシア側が不利な状況に陥れば、中国は経済的支援を装いロシアを利用することも考えられている。台湾海峡に中国軍、北方をロシア、韓半島に北朝鮮と中国が軍を展開すれば、まさに有事ということになる。
中国が台湾を力ずくで取ろうとした場合、沖縄に駐留する米軍が動く可能性は高い。その動きを牽制(けんせい)することを考えるとロシアの北方艦隊が重要になってくる。さらに韓半島で不穏な動きが起これば、米軍や自衛隊だけでこの地域を守るのは厳しい。
日本にとっても、ロシアが北から北方領土への軍備増強を図った場合、日本の自衛隊も動けなくなる。そうなると台湾は、今回のウクライナのような状況に陥ってしまう可能性もある。
もし中国に台湾が吸収されてしまうと日本は、3方向から攻められる可能性が高くなる。北はロシア、南は中国、中央は北朝鮮(中国)だ。
そのため日本、米国、オーストラリア、インドの首脳や外相、安全保障、経済の枠組みを協議する「クアッド」(QUAD)とオーストラリア、英国、米国の3カ国間による軍事同盟「オーカス」(AUKUS)の枠組みがより重要になってくる。
ウクライナでの状況は日本にとっても他人(ひと)事ではない。日本は、憲法改正を含めた議論を本格的に進めなければいざというときに、自衛隊を見殺しにしてしまう危険性がある。「話し合えば、何とかなる」「分かってもらえる」だけでは、国は守れない。時代は大きく変化していることをもっと自覚すべきだ。
(サンデー編集長 佐野 富成)