秘密保護法を槍玉に
日本人24人を含む2977人が犠牲になった2001年9月11日の米同時テロから、四半世紀が経過した。各紙は11日付社説でこれを論じた。総括すると視野狭(きょう)窄(さく)の朝日と、大局観をしっかり持った日経、焦点をピタリと合わせた産経が印象に残った。

朝日は「(米同時テロの首謀者とされる)ハリド・シェイク・モハメド被告らの初公判は28年6月。四半世紀を経ても本格審理に至っていない」とし「被告らが米情報機関の秘密拘禁や水責めなどの拷問を受け、供述の証拠能力をめぐる争いが長引いた。『テロとの戦い』を掲げた米国が法を踏み越えたことが、テロを法で裁く妨げになった」と書く。
そして「テロ対策を法や人道の一線を越える免罪符にしてはいけない」ともっともらしいことを述べた上で「国際人権団体アムネスティ・インターナショナルはエジプト、インド、香港などでテロ対策や国家安全保障に関する法律が政府に批判的な言論や人権活動を封じるために使われたと指摘する。日本でも特定秘密保護法などが制定された」と、主権国家として制定、運用するのは当然である特定秘密保護法まで人道にもとる法であるかのように扱っている。
朝日は「治安と自由の均衡を問い直さねばならない」と主張する。確かに政府による人権侵害はあってはならないが、守るべき「国家主権」を蔑(ないがし)ろにする朝日の体質も問いたださないといけないものだ。
米国を糾弾する毎日
一方、産経は「米国がテロ勢力との戦いに忙殺されている間に、専制国家の中国が力をたくわえるようになった。対中抑止の努力を怠ったことが今、台湾有事の恐れなど世界の波乱要因を生んだ」と間隙を縫う形での中国台頭に警鐘を鳴らす。
朝日は東アジアの専制大国・中国の脅威増大には目もくれない。毎日は「(米同時テロ後に)世界は変貌した。ロシアがウクライナを侵略し、イスラエルはパレスチナへの攻撃を繰り返す。中国は台湾への威圧を強め、過激派はアフリカで猛威を振るう」と少しだけ触れてはいるものの、憎悪の種を世界にまき散らすのは「正義なき力」を行使する米国だとばかり、米国の非をあげつらう。毎日の結論は「世界の混乱は、『9・11』の教訓に目を向けず、失策を重ねた米国に大きな責任がある」というものだ。
この点、日経は大人だ。「米国が20年に及ぶテロとの戦いに多大な戦費を費やす間に中国が台頭し、経済、軍事、技術などあらゆる分野で米中はしのぎを削る」とした上で「米国は中国への備えに注力すべきだが、イランとの戦闘の長期化がそれを妨げている。収束を急がなければならない」と注意喚起する。
また日経は朝日や毎日のように米国糾弾ののろしを上げるわけではなく、「米中攻防の主舞台となるインド太平洋をはじめ、世界の安定に米国の関与は不可欠だ。(中略)日本も欧州などと連携して米国のつなぎ留めに役割を果たす必要がある」と総括する。激するばかりでバランスを欠いた朝毎と違い、歴史の趨勢をしっかりつかんだ静かで確固とした「大人の風格」を感じる。
宗教対立が絡む中東
なお米同時テロを主導した国際テロ組織アルカイダは、皮肉なことに米国が産み落としたものだった。ソ連が1979年、アフガニスタンに侵攻したことでイスラムゲリラは米国の支援を受けながら戦った。アフガン残留組の一部がアルカイダとなり、預言者ムハンマドの生誕地メッカと埋葬地メディナの二大聖地のある国サウジアラビアに異教徒の米軍が駐留することに反発し、ジハード(聖戦)の宣言を行って対米テロに動いた経緯がある。
中東問題が難しいのは、こうした宗教対立が絡んでいることだ。ベネズエラでの成功体験が米国をイラン攻撃に走らせたのかもしれないが、気を付けないといけないのは宗教問題だ。それこそが米同時テロ最大の教訓だ。
(池永達夫)







