ロシアの「軍事攻撃」
ドイツ東部ライプチヒ・ハレ空港で先月4日夜(現地時間)、空港職員が正体不明の爆弾搭載ドローンを発見した事件について、ドイツのドブリント内相は今月1日、ロシアの関与を初めて名指しで批判し、ロシアに制裁を実施する意向を明らかにした。事件判明後約1カ月が過ぎてようやく「犯行はロシアの関与」と発表したわけだ。具体的には、ロシア軍参謀本部情報総局(GRU)の責任だ。

ドイツのメルツ首相は事件について「われわれはこの問題を極めて深刻に受け止めている」と警戒を強めていたが、誰の犯行かに関してはこれまで沈黙してきた。
ドイツの著名な政治学者トーマス・イェーガー氏はドイツ民間放送ニュース専門局ntvのインタビューで「ライプチヒ空港の爆弾搭載無人機事件はロシアがハイブリッド戦の枠を超えて(ドイツへ)軍事攻撃を始めたのだ」と指摘。「もし爆発していれば、使用された高性能爆薬の量から見て、死者を伴う大惨事になっていたことはほぼ確実だった」と述べている。その上で「爆発しなかったこと」を単なる技術的ミスや従来のハイブリッド戦の延長として片付ける政府や世論の姿勢に対し、強い警鐘を鳴らしている。
集団防衛の議論回避
イェーガー氏によると、西側諸国(特にドイツ政府)はロシアからの主権侵害や工作活動を何でも「ハイブリッド戦」という便利な言葉で片付けようとする傾向が強い。「ハイブリッド戦」という枠組みに収めてしまうと、世論や政治家は「戦争の一歩手前の嫌がらせ」や「心理的な揺さぶり」と受け止めることができ、本格的な反撃や北大西洋条約第5条で定めた集団防衛などの議論を回避できるからだ。
発生直後から、事件は素人の仕業ではなく、プロの工作と受け取られてきた。ドイツの公共放送ZDFや高級週刊紙「ディー・ツァイト」が治安当局筋の話として報じたところによれば、今回の爆発物搭載ドローンはホームセンターで買えるような市販のドローンではなく、モバイルネットワーク経由で専門的に操縦されるタイプのものという。
また、使用された爆発物は軍用・産業用の高性能プラスチック爆薬「セムテックス」や「PETN」の可能性が高いこと、起爆装置が非常に精巧であることから「プロの国家アクター(ロシア)」による犯行説が強かった。
「ディー・ツァイト」は「結局のところ〝ハイブリッド戦〟という便利な言葉で処理し、今回の事件を本格的な国家間衝突・軍事攻撃として扱うのを避けたがっている」と政府の弱腰を批判している。
ちなみにドイツ政府が決めた対ロシア制裁は、ボンにあるロシア総領事館の閉鎖、ベルリンの「ロシアン・ハウス」との契約解除、そしてロシア人に対する入国管理の強化措置などである。また、燃料の制裁回避に利用されているロシアの「シャドーフリート(影の船団)」に対しても、より厳しい措置を講じる方針だ。「ロシアン・ハウス」はクレムリンのスパイ活動の拠点としてこれまで利用されてきた。また、ロシアのウクライナ侵攻以来、ドイツはこれまで4カ所のロシア領事館を閉鎖した。今回閉鎖されるボンの総領事館は唯一残っていたロシア領事館だ。
プーチン氏は「捏造」
なお、ロシアのプーチン大統領は1日、訪問先のキルギスの首都ビシケクでの記者会見で、ドイツ政府の「ロシアの責任」という結論に対し、「ライプチヒでの証拠は捏造(ねつぞう)されたものだ」と強く非難し、「ドイツ側がロシアへの批判を強めるのは、(メルツ政権の)国内政治の支持率低下といった問題を解決するためだ」と嘯(うそぶ)いている。
いずれにしても、爆弾搭載無人機が爆発しなかったことがロシア側の恣意(しい)的な工作でなく、純粋な技術ミスの結果とすれば、ロシアはドイツに開戦を宣言しようとしていたことになる。
(小川 敏)







