トップオピニオンメディアウォッチ【新聞】産経「呑まれるアジア」で鉱物巡る争奪戦描くも安保への言及不十分

【新聞】産経「呑まれるアジア」で鉱物巡る争奪戦描くも安保への言及不十分

中央アの実態に迫る

 産経が19日から5回連載で、中央アジアにおける中国の巨大経済圏構想「一帯一路」の現場をリポートした。

 タイトルは「呑まれるアジア ~中露の『裏庭』は今~」で、ユーラシア大陸の東西を陸路と海路で結ぶ一帯一路の中央アジア部分に焦点を当てた。

 「現代のグレートゲーム」との見立てで、中央アジアでのレアアース(希土類)や重要鉱物などを巡る中国と欧米の争奪戦などを、現場にいないと書けない迫真の筆致で報告している。

 中央アジアは19世紀、ロシアが北から、英国がインドを起点に南から迫って覇権を競い合ったグレートゲームの現場だったが、連載ではロシアを巻き込みながら米中が鉱物資源などを巡ってパワーゲームを展開する「21世紀のグレートゲーム」の実態を描こうとしている。

 中国はレアアースを対外交渉の切り札として使っている。中国は、トランプ米大統領が仕掛けた関税戦争に対しレアアース輸出規制で牽制(けんせい)するなど「鉱物資源の武器化」を図った。連載では中国がレアアースで圧倒的地位を築いた背景にも言及。「一部のレアアースの精製工程では放射性物質が発生するため、環境規制の緩い中国に拠点が集中した」との経緯を説明する。

プリント基板や電子部品、半導体の原材料となるレアアース鉱物のイメージ
プリント基板や電子部品、半導体の原材料となるレアアース鉱物のイメージ

 レアアースをはじめ豊かな鉱物資源に恵まれているカザフスタンでは、鉱物資源開発で先行する中国と鉱物供給網の「脱中国」整備に余念がない日米欧が積極的に動きだし資源争奪戦が始まっている。

露に接近のキルギス

 連載②は、ソ連崩壊後、中央アジアで「民主化の優等生」とされるキルギスがロシアに急接近している実態に迫った興味深いリポートとなっている。ソ連崩壊で中央アジア諸国は独立を果たしたものの、カザフスタンやトルクメニスタンなどが独裁国家の道を突き進んでいく中、キルギスは言論の自由が保障され複数政党制を敷くなど「民主化の優等生」とされた経緯がある。そのキルギスはロシアによるウクライナ侵略以降、ロシア回帰に舵(かじ)を切っている。

 連載では「欧州メディアによると、EUからキルギスへの軍事転用リスクのある品目の輸出が侵略前と比べて約800%増え、キルギスからロシアへの輸出も約1200%増えたことをEUは把握した」と書いた。

 背景にあるのは、ウクライナを侵略したロシアに科した欧米諸国の制裁措置だ。ロシアは制裁を回避するためキルギスなど関係のあった国々を引き寄せ、入ってこなくなった重要資源確保に動いたのだ。

 そもそもキルギスにとって、ロシア切り捨ては現実的ではない。石油や天然ガスなどエネルギー資源のロシア依存度は高いし軍備もロシア製が多くを占める。また、ロシアで出稼ぎをする労働者からの送金が国内総生産(GDP)の3割を超えていた時代もあった。こうした米露の狭間(はざま)で揺れる小国キルギスの実態も興味深い。

中国が軍事面で布石

 ただ連載で残念なのは、動きだしているはずの中央アジアにおける安全保障への食い込みが足りないことだ。

 中国の一帯一路は、情報技術(IT)や人工知能(AI)などを活用した物流、経済回廊の整備だけではなく、軍事基地整備など安全保障の布石も打っている。毛沢東の「政治権力は銃口から生まれる」との言葉を共産党独裁政権のDNAとして受け継いでいる中国では、当然のことだ。海の一帯一路では、スリランカ南端のハンバントタ港を99年間租借して管理運営権を手にし中国艦船を寄港させたり、カンボジア南部のシアヌークビルにあるリアム海軍基地をアフリカのジブチ基地に次ぐ中国人民解放軍の海外基地にしようとしている事実に照らし、陸の一帯一路の要衝となる中央アジアで中国がどう軍事的テコ入れを図っているのか、もっと踏み込んだ記事を見たかった。

(池永達夫)

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