欧州でも関心集める
「われわれは5000年の歴史を誇る。あなたがたイスラエルは3500年の歴史を持っている。それに比べると米国は200年余りの歴史しかない」
中国のビジネスマンがイスラエルを訪問し、商談する時、必ずと言っていいほど上記のせりふを吐くという。自国を誇り、商売相手のイスラエルを称賛する一方、米国を軽蔑する時のせりふだ。米ニューヨークに拠点を置く中国反体制派メディア「大紀元」(2018年11月23日)が報じていた。
歴史は長ければいい、というものではない。長ければむしろ隠したい負の側面が増えてくるからだ。長さを誇る中国の歴史の場合、直近の例だが、毛沢東の文化大革命や天安門事件の大虐殺などがすぐ想起される。中国共産党政権は今日、それらの負の歴史を必死で覆い隠している。一方、米国の歴史は確かに短い。現時点では日本の江戸時代(265年間)よりも短い。にもかかわらず、21世紀の今日、世界最強国家として君臨している。その米国が今年、建国250年の節目を迎えたこともあって、欧州でも米国の歴史に関心が注がれている。

反米的歴史観を排除
トランプ米大統領は25年3月27日、「米国史における真実と健全さの回復」と題された大統領令1万4253号に署名した。米国から反米的な歴史観を排除して肯定的な歴史教育を推進することを目的に掲げ、米国の歴史を否定的に伝えるのではなく、偉大な歴史として肯定的に伝えるよう政府機関に求める通達だ。
この大統領令に対して、歴史の多様な側面や事実の修正につながるとして、懸念の声が早速聞かれた。オーストリアの歴史学者ヨハネス・ファイヒティンガー氏は先月12日、オーストリア通信(APA)に発表した「米国建国250周年」についての寄稿の中で、「トランプ氏は、多くの西側民主主義諸国に見られるような『記憶の文化』(過去を省みる文化)を米国から排除し、代わりに国家への愛国心を強化しようとしている」と指摘し、「時代錯誤な歴史観」と酷評している。
ファイヒティンガー氏によると、「トランプ氏は現在、記憶の文化から決別し、1980年代まで主流だった歴史的ナラティブ(物語)へと回帰しようとしている。それは、すべての市民が自由で平等であると謳(うた)い、進歩と成功を目指す共和国というイメージだ。奴隷制や人種隔離の歴史は概して省みられず、ワイルド・ウエストにおける血塗られた征服は、文明化の使命と解釈されている」というのだ。ちなみに、英雄的な米国というビジョンを掲げた最後の米大統領は、トランプ氏が尊敬する第40代大統領ロナルド・レーガン(在任81~89年)だという。
どの国の歴史も国民を鼓舞し、民族の誇りをたたえるのが主流だ。日本の戦後の歴史観のように、自虐史観では国民は萎縮するばかりか、健全な愛国心も育成できない。大統領令で「今後は批判的な自己省察から視点を転換し、米国民の功績と進歩の偉大さを称揚することで、国家への愛国心を高めることが求められる」と要請しているのはある意味でうなずける。
「信教の自由」が核心
なお、移民問題などでトランプ氏と対立してきた米国人教皇レオ14世は今月4日、米国民に向けて「建国250周年記念書簡」を発表した。バチカンニュースによると、教皇は、1776年7月4日に行われた独立宣言の署名を、自身の祖国の歴史における極めて重要な瞬間――「自由、平等、幸福の追求、正義、そして民主的な自治という理想に、永続的な声を与えた瞬間」――と高く評価。そして書簡の後半で「何人も、自らの良心に従って祈り、強制や恐れを抱くことなく公然と信仰を実践する権利がある。信教の自由こそ米国の理念の核心である。それは、個人の尊厳と、多様な人々の平和的共存の双方を守るものだからだ」と強調している。レオ14世は、米国の建国が「信教の自由」という理念から誕生したという史実を思い出させてくれた。
(小川 敏)






