「分裂の危機を内包」
「聖ピオ十世会」(SSPX)の「破門問題」といっても、ピンとこない読者は少なくないはずだ。日本ではカトリック信徒数が全人口の1%未満と少ないこともあって、大手メディアはロイターやAFP、BBCなどの海外電をベースに、「バチカン、伝統派の信者らを破門」という国際ニュースの1トピックとして事実関係を報じるに留(とど)めている。

一方、欧米のキリスト教世界では、カトリック教会の伝統主義派組織のSSPXへの破門宣言は、第2バチカン公会議(1962~65年)以降の教会現代化(アジョルナメント)への反発と、教会の最高権威、ペテロの後継者であるローマ教皇への不従順に対するバチカン教皇庁の苦渋の選択と受け取られており、メディアも「現代カトリック教会史上最大とも言える分裂(シスマ)の危機を内包した出来事」と深刻に報じている。
バチカンニュースは2日、社説で「破門を宣告する布告が公布された日は、まさに痛ましい日だ。ルフェーブル派の2人の司教、ガラレッタとフェレー、そして新たに叙階された4人の司教は、按手(あんしゅ)が行われたまさにその瞬間に、自動的にこの罰を受けることになった」と報じている。
無許可で司教を任命
SSPXは70年、フランス出身のマルセル・ルフェーブル大司教(05~91年)によってスイスのフリブールで創設された。第2バチカン公会議の改革を公然と拒絶し、ラテン語ミサ司祭の養成を強行したため、76年にはルフェーブル大司教に聖職執行停止処分が下された。そして88年の無許可の司教叙階によって決定的な破門宣言を受けた。その後、2009年のベネディクト16世による破門解除、フランシスコ前教皇の下での部分的和解へとSSPXは形を変えながら続いてきたが、今回、教皇の許可なく4人の司教が任命されたことが明らかになり、新たに破門宣言を受けることになったわけだ。
フランスでは、ルモンドなどの主要紙・公共放送が「カトリック教会内部の深刻な精神的内戦」として、歴史的かつ社会的な背景を含めて大きく報道している。第2バチカン公会議以来のフランスにおける「世俗化(ライシテ)」と、それに激しく抵抗する「伝統主義」との文化的断絶を浮き彫りにする論調が目立つ。
一方、独紙フランクフルター・アルゲマイネは、バチカンが「これ以上の法秩序の無視は許さない」という明確な赤線(境界線)を引いたことを解説し、教皇の権威主義に対する妥協なき姿勢を評価している。リベラル系・社会派メディアの独週刊誌シュピーゲルは、SSPXが持つ「反近代主義」のイデオロギーが、欧州(特にドイツやフランス)で台頭する極右ポピュリズムや国粋主義的な政治運動と親和性を持っている点を鋭く分析している。
米紙ウォール・ストリート・ジャーナルは、この宗教的危機が「新教皇レオ14世の最初の重大な試練」であると位置付けている。世界に約60万人いるとされるSSPX信者たちの声を拾い、世俗化する世界と宗教的原理主義の衝突という現代的な文脈で報じている。また、米独立系カトリック・ニュース週刊紙ナショナル・カトリック・リポーターは、これまで歴代教皇がSSPXに一定の寛容さ(告解の有効化など)を与えてきた歴史が、今回の教皇レオ14世による厳罰によって完全にリセットされた点に注目し、教会の法秩序が厳格に適用されたと論評している。
若い信徒が流れ込む
現在のローマ教皇庁が同性カップルへの祝福の容認などのリベラルな改革を実施すれば、伝統派聖職者や信者たちは警戒を一層強めるだろう。SSPX破門問題は結局、「聖伝(神の教え)は何か、誰がそれを守り伝えるのか」というテーマを提示しているわけだ。皮肉なことに、バチカンが一般の教会での伝統ミサを制限したため、ラテン語ミサや厳格なカトリック信仰を求める若い世代の信徒や家族層が、制限の及ばないSSPXの教会へと流れ込む現象が世界各地で見られるという。
(小川 敏)






