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【海外】人権外交と移民問題のはざまで揺れ動くEUを伝える欧州メディア

イタリア南部ランペドゥーザ島に到着した移民ら=2023年9月18日(AFP時事)
イタリア南部ランペドゥーザ島に到着した移民ら=2023年9月18日(AFP時事)

タリバンと公式協議

 2021年8月、アフガニスタンでイスラム主義組織タリバンが政権を掌握した際、欧米メディアは一斉に女性の権利や民主主義の後退に懸念を表明した。

 女子中等教育の禁止や女性の就労制限は「世界で最も深刻な女性の権利危機」(国連女性機関=UNウィメン)とされ、欧州連合(EU)はタリバン政権を承認しない姿勢を鮮明にした。

 ところが5年後の今年6月、そのタリバン代表団がEU本部があるベルギーのブリュッセルを訪れ、EU当局者らと公式協議を行った。

 EUは「外交承認ではなく技術的、実務的な協議」と説明している。だが、メディアが注目したのはタリバンよりもEUだった。人権を外交の柱としてきたEUが、移民対策を優先する現実路線へと比重を移しつつあるのではないかという疑問からだ。

 今回の協議では、欧州に滞在するアフガン人の送還や身元確認、領事業務などが主要議題になったという。EUは「送還を円滑に進めるための実務協議」であり、「外交承認とは全く別の問題」と主張する。

 しかし、米AP通信は、EU加盟国で移民問題が深刻な政治課題になっていると指摘する。ドイツやオランダ、ベルギーなどでは移民規制を求める世論が強まり、不法滞在者や犯罪歴のある外国人の送還への圧力が高まっている。アフガンを実効支配するタリバンと接触しなければ送還手続きが進まず、EUは「承認しないが話し合う」という現実的な対応を迫られたというわけだ。

徐々に進む「正常化」

 一方、英紙ガーディアンは、「EUはブリュッセルでタリバンを受け入れることで激しい批判に直面している」とアフガンの女性活動家らの反発を伝えた。

 その中で印象的なのは「正常化」という文言だ。人権活動家は「ブリュッセルで会議室を用意し、ビザを発給しておいて、『これは承認ではない』というのか」と批判する。形式的な国家承認がなくても、実際に会談を重ねることでタリバンは徐々に「交渉相手」として国際社会に受け入れられていく。それこそが「正常化」だということだ。

 ガーディアンが紹介した欧州政策研究者の言葉も示唆に富んでいる。「正常化に条約は必要ない。ビザを発給し、会議室を提供し、原則が取引へと静かに置き換わることで進んでいく」。興味深いのは「原則」と「取引」だ。

 この原則は、EUが長年掲げてきた人権や民主主義、法の支配といった価値観を指す。一方、取引は、移民送還や国境管理といった目の前の政治的課題だ。同紙は、今回の協議を「理念と現実の衝突」と描いている。

 この点、EU専門メディア、EUオブザーバーは冷静だ。EU当局が一貫して「技術レベルの協議」とあえて強調したことについて、「外交ではない」と繰り返し説明しなければならないほど、この協議が政治的意味を持つことを当局自身が認識しているということと分析する。

 欧州ニュース専門局ユーロニュースも「移民政策の現実が理念を追い越したことを象徴している」と位置付けた。

優先順位が変わった

 21年当時の報道では、「女性の権利の侵害」「民主主義の崩壊」などの見出しが躍った。今回の協議についてノーベル平和賞受賞者のマララ・ユスフザイ氏は「深く動揺している」とX(旧ツイッター)に投稿した。厳格なイスラム主義に基づくタリバンの統治が改善したわけではない。変わったのは欧州側の優先順位だ。

 EUは依然、タリバン政権を承認していない。女性の権利侵害への批判も続けている。それでも、移民問題という現実を前に、「接触しない」という原則を維持することは難しくなった。

 「人権外交」を掲げてきたEUが、移民問題という現実を前に、どこまで理念を貫けるのかが問われている。

(本田隆文)

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