ザ・スターへ名称変更
米首都ワシントンでメディア業界の再編が進んでいる。新興政治専門ニュースサイトNOTUSが6月、ザ・スターへ改称し、地域ニュースやスポーツ報道を含む総合ニュースメディアへの転換を打ち出したためだ。リベラル系の主要紙ワシントン・ポストの後退を背景に、首都メディア市場の勢力図が変わろうとしている。
ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)などによると、NOTUSは2024年、政治専門紙ポリティコの共同創業者として知られるロバート・アルブリトン氏が設立した非営利組織「アルブリトン・ジャーナリズム・インスティテュート(AJI)」によって創刊され、議会やホワイトハウスへの取材を中心に政治報道を行ってきた。
そのNOTUSが今年春、ザ・スターへの改称を決定した。編集長ティム・グリーブ氏は、「政治のワシントンだけでなく、市民が暮らすワシントンを報じたい」と説明している。首都圏の総合ニュースメディアを目指す方針だ。

看板記者相次ぎ移籍
その背景にはポストの苦境がある。
ポストは長年、首都圏の圧倒的な有力紙として君臨してきた。しかし近年は購読者減少や収益悪化に直面し、大規模な人員削減を実施。多くの著名記者が退職したと報じられている。
英紙ガーディアンによると、アルブリトン氏はポストの人員削減を「好機」と捉え、積極的な記者採用を開始。ポストの看板記者が相次いでNOTUSへ移籍しているという。
WSJは、アルブリトン氏が「首都に新しいニュース組織を構築する好機が訪れた」と判断し、記者数を約100人規模へ倍増させる計画を進めていると伝えている。
今回の改称で注目されるのはその名称だ。1852年創刊の名門保守系紙ワシントン・スターを意識したものだからだ。アルブリトン氏の父ジョー・アルブリトン氏が70年代に同紙を所有していたこともあったが、経営難により1981年に廃刊された。
これを受けて82年に創刊されたワシントン・タイムズは、ポストとは異なる視点を提供する保守系新聞として位置付けられた。レーガン政権の反共主義や強い国防政策を支持する論陣を張り、保守運動の重要な発信拠点となった。
ポストはワシントン・スターの廃刊を受けて、「首都ワシントンは一紙体制になる」との見方を示していたが、その後のワシントン・タイムズの創刊については「首都ワシントンに保守の声をもたらし、ワシントン・スター廃刊によって生じた空白を埋める」ためだったと報じている。
その後の40年間、ポストは首都メディア市場の中心であり続けた。特にトランプ政権期には購読者を大幅に増やし、ニューヨーク・タイムズと並ぶ全国紙として存在感を高めた。
しかし近年、状況は変化している。
ポストのオーナーであるアマゾン創業者ジェフ・ベゾス氏は、論説面について「個人の自由」と「自由市場」を重視する方向性を示し、従来の路線を修正しようとしていると報じられている。これに反発する記者や読者も少なくない。
商標権巡り法廷闘争
興味深いのは、保守系紙ニューヨーク・サンの発行人ドビッド・エフネ氏もまた、ワシントン・スターの名称復活を目指している点だ。エフネ氏は小さな政府や反官僚主義を掲げる保守的な論調で知られ、現在、NOTUS側との間で商標権を巡る法廷闘争が続いている。
ポストの後退によって生じた空白を、中道・保守メディアが埋めようとしている構図が生まれている。
2007年にアルブリトン氏らが創刊したポリティコは、デジタル時代の政治報道を大きく変えた。ワシントン・スター廃刊から45年。ワシントン・タイムズ創刊から44年。ポストの後退を受けて、ワシントンのメディア市場は新たな転換点を迎えている。
(本田隆文)





