
言葉で縛るのが狙い
8年半ぶりに北京を訪問したトランプ米大統領と習近平中国国家主席の会談では、「建設的戦略安定関係」を構築することで合意した。
建設的戦略安定関係とは、相互の軋轢(あつれき)を管理して節度ある競争で協力関係を目指すといった意味合いだ。習氏が提示しトランプ氏が合意したとされる。
この建設的戦略安定関係について、朝日は15日付社説で「同盟関係や国際法、法の支配といった戦後秩序の基盤を軽視し、自国の利益ばかりを優先した取引外交に走るトランプ政権の米国に対し、中国が『安定した大国』を演出する構図」と読み込んだ。
これに対し産経は15日付主張で「米中の本質的な対立が解消するわけではない」と前置きした上で「両首脳は当面の安定演出を選んだといえるのではないか」と総括した。
この長ったらしい建設的戦略安定関係という言葉を作り出したのは、大国米国を言葉の力で縛り上げる中国の意図があったからだ。
今後、米国が新たに台湾への武器売却やハイテク規制に動いた時、中国は合意した建設的戦略安定関係に違反すると米国を牽制(けんせい)できる効能がある。こうした新概念を作り出し、その言葉の呪縛力を活用する手法は、中国外交の定石となっている。これまでにも習近平政権は新型大国関係、人類運命共同体、アジア新安全保障観、一帯一路など多くの造語を生み出し国際社会へのバーゲニングパワー強化を図ってきた。
「嘘と暴力」が根底に
孫子の兵法に「兵は詭道(きどう)なり」とある。詭道とはだますこと。
要は戦って勝つのは、中の下で戦費もかさむし自分の兵力も傷つく。それより敵をだまして屈服させ、疲弊を避けて勝利の果実だけ物にできればそれに越したことはないという現実主義の定番だ。
戦って負けるのは下の下となるが、中国は戦って負ける相手とは戦わず、圧倒的パワーを身に付けるまで臥薪(がしん)嘗胆(しょうたん)を重ねる。そして相手と対等以上の力を身に付けた時、有無を言わさず自分の好む方向に事態を牽引(けんいん)していく。
その意味で中国共産党の本質部分に「嘘(うそ)と暴力」が潜んでいることを熟知しないといけない。
相手がなお強大な力を持っている時は、嘘で煙(けむ)に巻いて時間稼ぎし、相手を圧倒する十分な力を蓄えたとみたら「暴力」で押し切る。
今の中国は、その端境(はざかい)期にある。
鄧小平の改革開放路線で蓄えた世界の製造大国として、経済産業力と貿易黒字を軍事力に投入して強大化した中国人民解放軍をバックにした中国は、世界の強大国米国に揺さぶりを掛け、ナンバー2からナンバー1に駆け上がろうとしている。
そうした端境期の中国に対処するには、その嘘を見抜き暴力の核心部分に備えることが肝要となる。
ナイーブ過ぎる東京
その意味では、16日付東京新聞の社説で「台湾海峡の軍事的緊張は東アジアの安全保障に重大な影響を与える。中国の武力行使を阻止するには、米国が台湾防衛に適切に関与することが必要だろう」と言うのは正論だと思う。
だが、同社説は最後の総括で「日本政府は、トランプ政権に対して台湾海峡を含む東アジアの安保に引き続き関与するよう促し、米中双方に緊張緩和を呼びかける戦略的な外交が必要だ」と書いた。
東アジアの安全保障に米国は欠かすことができず、その関与を促すというのは正しいものの、わが国に米中デタントに向けた呼び掛け人たれというのは、中国の本質的脅威に立ち向かうにはナイーブ過ぎよう。
それを東京は「戦略的な外交」としているが、戦略的というなら「嘘と暴力」を使い分けてとどめを刺しに来る中国の100年戦略にしっかり対応することこそが肝要となる。
(池永達夫)





