
緊急事態想定し整備
政府は緊急事態を想定したシェルター(避難施設)確保に関する基本方針を閣議決定した。民間の地下施設の活用促進や自然災害時と有事の双方で使えるシェルター整備を全国規模で進めるものだ。
スイスのルツェルン市には2万人収容可能な核シェルターがあり、北京の天安門広場地下には30万人収容可能な巨大シェルター「北京地下城」が存在する。最悪の事態を想定したシェルター整備は、安全保障では当たり前のことだが、平和ボケしたわが国ではまっとうな議論がこれまでなされてこなかった。それがやっと日の目を見ることになったのだから、まずは歓迎だ。
わが国は隣国である中国やロシア、北朝鮮のミサイルの射程圏内にすっぽり入っているのに、シェルター無策のままでいいわけがない。
このシェルター基本方針の閣議決定に対し、社説を張ったのは産経と朝日だった。
産経は地下避難主張
産経は2日付主張「シェルター新方針 『地下避難』を原則にせよ」で、「人口カバー率を令和12年までに全市区町村で100%とする目標を掲げたが、学校など地上建物の指定算入も認めているのは疑問だ」とし「堅牢(けんろう)な地上建物は屋外にいるよりもましだが、地下空間の方がはるかに安全だ。国民の命を守るため地下避難を原則とすべきである」と問題提起した。
政府の現時点でのカバー率試算では、都道府県や政令指定都市レベルにおいては全人口収容可能となっているものの、「地上施設が大半では話にならない」というのだ。
同主張は分かりやすい例を挙げて見直しを迫る。
「広島への原爆投下では、爆心地からわずか170㍍にあったコンクリート製建物の地下一階書庫にいた当時47歳の男性が、すさまじい爆風や熱線、初期放射線から遮断され、ほぼ無傷で脱出し、84歳の長命を保った」と有事のリスクを激減させる効能を述べ「地下シェルターの指定、整備を急いでほしい」と総括した。
まさに的を射た正論だと思う。
攻撃対象とはなりにくい田舎や山間部での地下施設は現実的ではないが、都市部では地下シェルターによる人口カバー率向上を図る必要がある。
また、すべてのシェルターを電子地図上に集約した上で、全地球測位システム(GPS)とも連動させて緊急時に現在の場所から近くのシェルターに向かうルートが提示されるようなアプリ開発も必要となる。
外交努力は当たり前
一方、朝日は1日付社説「シェルター整備 住民の安全を守るには」で、「政府がシェルターの必要性を強調するほど、浮かび上がるのは、戦争を起こさせない外交努力の大切さである」と書いた。
相手国から攻撃を受けたり戦火を交えたりすることがないよう、外交努力が求められるのは当たり前のことだ。政府の基本方針にも「(国は)そもそも武力攻撃の発生が回避されるようにしなければならず」との一文が書いてある。それでも何が起きるか分からないのが未来であり、その備えがシェルター整備だ。また、有事に住民の安全を担保できるシェルターの整備が不十分な場合、武力攻撃だけでなく前段階での威嚇にも弱く、有事前のバーゲニングパワーを欠くことにもつながる。
朝日が強調したいのは同社説で述べている「中国との関係悪化が続き、北朝鮮との意思疎通も欠く」ことだ。
要はシェルター論議を隠れ蓑(みの)にした、朝日的主張の発露の場にしたにすぎない。シェルター問題を正面から見据えてまじめな議論を展開した率直な産経とは裏腹に、朝日はその名前とは対照的な陰湿さが際立つ。
(池永達夫)






